Long
□カーテンに隠れてキスを
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「何でオレが日直なんだよ」
「文句言わないの!こっちが文句言いたいぐらいよ」
日直の仕事を手伝ってほしいと頼まれて、あたしは雅之と教室にいる。
早く部活に行きたいならさっさと仕事をすればいいのに、雅之は全然動こうとしない。日直は雅之なのに、どうしてあたしが日誌を書かなきゃいけないのよ。
「ほら雅之。せめて今日の反省ぐらい自分で書いて」
「めんどくせー」
「書ーいーて」
「…はいはい」
ようやくシャーペンを握り、雅之は今日の反省を書き始めた。すぐ書き始めれば早く終わるのに…この野球バカめ。
「香那ー」
「何ー?」
「好きな奴いる?」
「…………はい?」
雅之、いきなり何を言い出すの?一瞬固まったじゃないの!
「だからさ、好きな奴、いる?」
「……いるって言ったら?」
ちょっとイジワルに答える。これぐらい許されるよね。
「んー…嫌かも」
「何で嫌なの?」
恐る恐る訊いてみる。
あーこれで『遊び相手がいなくなったら暇じゃん』とか言われたら、あたしヘコむなぁ…。
「だってオレ、香那が好きだし」
「それは幼馴染みとしてでしょ」
我ながら可愛くない返事をしたと、今更後悔する。
あたし、何を言ってるんだろう……。
もっと素直になれたら、幼馴染みの関係から抜け出せるのかな?
あたしの返事を聞いた雅之は、音を立てて椅子から立ち上がった。
日誌を持っていくのかな?それならあたしも職員室に行こうと思って、立ち上がる。
「雅之、あたしも職員室に」
「香那」
いつもより真面目な声に、思わず静止してしまう。
目の前に立っている雅之の顔は、いつものヘラヘラ笑っている顔じゃない。
「雅之…?」
「オレ、本気だから」
「じょ、冗談言わないで」
「冗談じゃねぇよ!」
雅之があたしの肩を掴む。指が肩にくい込んで、痛い。いつもの優しい感じじゃない…。
「雅之、痛いよ…っ」
「香那が逃げるからだろ?オレから逃げるな」
「あ、あたしは逃げてない!」
「じゃあ聞かせてくれよ。返事は?」
「……あ、」
あたしが口を開いた刹那──
「雅之、まだ終わらないのか!?いい加減早く部活に──って、いないじゃないか……」
また、お兄ちゃんが教室に乱入して邪魔をする。
因みにあたしは雅之と一緒にカーテンの後ろに隠れている。
お兄ちゃんの足音が聞こえた瞬間、雅之に引っ張られて隠れたのだ(うちの学校のカーテンは、床に付くぐらい長い)。
「何処に行ったんだ、雅之は…。仕方ない。他を探すか」
お兄ちゃんの足音が遠ざかって行く。
あたしはホッと一息吐いた。
「香那、返事は?」
後ろにいる雅之が、返事を促す。答えなきゃ…。
「…雅之、あたしもだよ」
「え?」
「だから…あたしも雅之が好き」
言っちゃった!恥ずかしいっ。でも、これでいいんだよね?あたし、やっと言えたんだよね?
「香那」
「な、何よ」
「オレ、もう我慢出来ない」
「何を……キャッ」
くるりと身体を回され、雅之と向き合う形になる。ちょっと顔を上げると、そこには雅之の顔が……近いってば。
ん?あれ?どんどん近付いて──
チュッと音がした。
唇には、柔らかくて温かい感触。それが雅之の唇だと気付くのに、時間は掛からなかった。
カーテンに隠れてキスを
「あ、あたしのファーストキス…」
「ん?もっと深いのが良かった?」
「…雅之のバカっ」