Long
□雨の日が好き。(だって貴方を独り占めできるから)
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「香那、お兄ちゃんと一緒にゲームしよう!」
「一人でやれば?」
「香那ぁ、構ってくれー」
雨が降って蒸し暑いある日。只でさえ雨でじめじめしているのに、お兄ちゃんが色々としつこいから余計に暑苦しい。
もう少し妹離れしてほしいよ。
「ゲームしないで筋トレとかしたらどうなの?もうすぐ大会なんでしょ。ベンチの雅之は毎日筋トレしてるのに、スタメンのお兄ちゃんが怠けてどうするのよ」
「何!?雅之の奴、抜け駆けしようとしてるのか!よし、俺もするぞ」
別に抜け駆けしようとしているわけじゃないんだけど…お兄ちゃんがやる気になったならそれでもいいかな。
お兄ちゃんにやる気を出させるには、雅之の名前を出すと一番いいんだよね。
お兄ちゃんが筋トレをしている隙に、あたしは自室に戻る。
自室に入って扉を閉めたと同時に、携帯が鳴った。この着信音は…
「雅之からだ」
えっと、何々……『暇。ヒマ。ひま。暇。ヒマ。ひま。暇……(エンドレス)』それしか書くことないの!?
雨で部活が無いからって、彼女にこんなメールを送るなんて…。
でもあたしも暇だし、せっかくだから電話を掛けることにしよう。うん。久々に長話が出来そう。
電話を掛けると、雅之は一回目のコールで出た。
『香那?待ってたぞ』
「出るのが随分早いね」
『そりゃあ携帯とにらめっこしてたからな』
雅之が携帯とにらめっこ……。ダメだ。笑っちゃいそう。
あたしが必死に笑いを堪えていると、雅之は一つ提案をしてきた。
『なぁ、香那も暇だろ?何処か行かないか?』
「あたしが暇なのは前提なのね」
『暇じゃないのか?』
「…暇」
『やっぱり暇じゃん。香那は何処に行きたい?』
「何処って…雨降ってるよ?」
窓から外を見ると、期待を裏切らないぐらいどしゃ降りで、とても外出できそうじゃない。
『せっかく休みなのに、何処にも行けなくてごめんな』
「ううん。あたしは雅之とこうして話せるだけでも嬉しいよ」
『……だー!雨なんか嫌いだっ』
急に大声でそんなことを言うから、吃驚して携帯を落としそうになった。
理由を訊いてみれば、あたしと出掛けられないかららしい。それは嬉しいけど…
「そんなに雨が嫌い?」
『だって野球はできねーし、香那には我慢ばっかりさせるし…』
「本当に野球好きだね」
『三度の飯より野球だからな』
雅之の野球好きは今に始まったことじゃないから別に気にしないけど、雅之ってば野球バカ過ぎる。
あたしがクスクス笑うと、何を勘違いしたのか、雅之が慌て始めた。
『た、確かに野球は好きだけど、だからって飯はちゃんと食べてるからな!』
「知ってるよ。一緒に食べてるでしょ」
『そ、そうだな』
なんだか今日の雅之は変。いつもならこんなに慌てないのに…。
「雅之。どうしたの?野球できないから具合でも悪い?」
『なんだよ、それ。…まぁ似たようなもんだな』
「似たようなもの?」
『あぁ。香那に会えなくてエネルギー切れ。だから香那に会いたいのに』
…雅之、なんでそんなに恥ずかしいことを言えるのよ。顔が熱いっ。
こうなったらあたしだって…
「雅之」
『ん?』
「あたしは……
雨の日が好き。(だって貴方を独り占めできるから)
今、本当に幸せだよ」
『……』
「雅之?」
『香那、今からそっちに行く!』
「え!?ちょっと待って!お兄ちゃんがいるのにっ」
(その後、結局お兄ちゃんに追い返されました)