Long

□宝物キャンディー
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あれは、いつだっただろうか。




「まーくん…来てくれたんだ」


ゴホゴホと咳をしながら、少女は身体を起こしつつ微笑んだ。
少女を見舞いに来た少年は、慌てて彼女を寝かしつける。


「まだ寝てなきゃ。熱があるんだろ?」

「でも、せっかくまーくんが来てくれたのに…」

「ダメだ。寝てなきゃ下がらないよ」


少女を布団の中に入れると、少年は自分の額と少女のそれに手を当て、熱の有無を調べる。どうやら思っていたより熱は下がっているらしい。少年は安堵の息を吐いた。


「しっかり寝て、早く元気になって、明日、いっしょに学校いこう」

「…うん!早くなおすねっ」


頬を赤く染めながら、少女は笑う。
少女のしっかりとした返事に、少年は頷いた。




少女が寝たのを確認すると、少年は彼女の傍を離れようとする。
しかし、少女が少年の袖を掴んで放さない。少年は困った。
風邪がうつるという事は無いだろうが、このまま少女の部屋に居座るのは、命の危険に晒される。彼女の兄が恐ろしい存在なのだ(少年限定)。


「…まー…くん…」

「……」


帰るに帰れなくなってしまった。
少年は帰宅を諦め、居座ることにした。
彼女を泣かせるぐらいなら、自分が彼女の兄の犠牲になったほうがマシだと思ったからだ。


「ちゃんと治すんだよ?」


少女に囁き、少年は瞼を落とした──。




「──くん……まーくん!」

「……あ、寝ちゃってた。今何時?」

「えっと…夜の九時だよ」


少女の答えに、少年は瞳を見開いた。
彼が彼女の家に来たのは午後三時頃。こんなに長居するつもりはなかったのだ。
よく兄に見つからずに無事だったなぁと少年は呑気に思った(つまりは開き直ったのだ)。


「もう帰らなきゃ」

「あ、まーくん!ちょっと待って」


すっかり熱が下がったらしい少女は、近くにあった袋をゴソゴソ漁った。そして目当ての物が見つかったのか、少女は少年に右手を差し出した。彼女の手には、可愛らしい飴が握られていた。


「まーくんにあげるね。今日おみまいに来てくれたお礼だよ」

「…ぼくがもらうのってヘンじゃない?」

「どうして?まーくんは、わざわざおみまいに来てくれたんだよ?お礼しなきゃ!」


どうやら飴を貰わないと帰れなさそうだ。少年は「ありがとう」と礼を言って受けとった。
少女は、ニコッと笑う。
その笑顔に、少年も笑った──。








******









「──き。……雅之!」

「んあ?…悪ィ。寝てた」


香那と教室で話していて、何時の間にか寝ていたらしい。気付けば、香那は怒っていた。


「もう!どうして寝ちゃうかなぁ。あたしと話すのつまらない?」

「まさか!ちょっと疲れてただけだ」


そういえば、懐かしい夢を見たような気がする。確か、まだオレと香那が小学生(しかも低学年)の頃だ。香那が風邪を引いたから、見舞いに行ったんだっけ。


「…なぁ香那。飴、持ってるか?」

「何よ、急に…。今は持ってないけど、家にならあるよ」


あの時貰った飴は、直ぐ食べてしまったから、今は残っていない。あの飴の味を確かめたくて、もう一度食べたくなった。


「じゃあ帰りにくれ」

「うん。フルーツキャンディーだけど大丈夫?」


フルーツキャンディー。それは香那があの時くれた飴だった。








宝物キャンディー








「何味がいい?」
「…イチゴ」
「えー。イチゴはあたしが好きだから嫌だ」
「(あの時はイチゴ味くれたのに)」

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