Long

□貴方の隣で微笑んでいられる未来を下さい
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今日は高校球児の目標である全国大会、所謂“甲子園”の開会式。見事各都道府県の代表になった高校の球児たちが甲子園球場に集まっている。
あたしは黙々と行進をする球児たちを見ながら、隣に座っている雅之に声を掛けた。


「雅之…今回は残念だったね」

「オレなんかより、圭太先輩を労ってくれ。先輩は、今回で最後だったから…」


雅之やお兄ちゃんたちは頑張った。だけど、結局は県大会準決勝敗退という形で幕を閉じた。終わった瞬間のお兄ちゃんは、静かに泣いていた。勿論部員の殆どが泣いていたけれど、あたしにとって、お兄ちゃんの涙は特別だった。家では長男だからという理由で泣かなかったし、人前では滅多に泣かない。そのお兄ちゃんが泣いたのだ。これは我が家の一大事だった。
だけど、あたしは雅之だって大事だ。確かに雅之には来年があるかもしれない。でも、お兄ちゃんたち三年生と試合をするのは最後だった。それは、雅之にとってもツラいはず。

ウチのテレビで開会式を観ている雅之の表情は、悔しそうだ。お兄ちゃんも放っておけないけど、雅之だって放っておけない。


「嫌だ。あたしは雅之が心配なの!…雅之が泣いちゃうんじゃないかって」

「…オレは泣かない。先輩たちが果たせなかった夢を、来年はオレたち二年が叶えなきゃいけないんだ。泣いてる暇なんかない」


「だから心配するな」と言って、あたしの頭をポンポンと叩く。
雅之は、本当に強いんだね。あたしまで気にかけてくれる。そんな余裕無いはずなのに…。

あたしは雅之にギュッとしがみついた。雅之は驚いて、でもあたしの背中に腕を回してくれた。


「雅之なら、きっと甲子園に行けるよ」

「香那…」

「あたしも応援するし、いっぱいサポートしてあげる。だから諦めないでね」

「…香那が応援してくれるなら、諦められないな。オレ、絶対甲子園に行くから!」


雅之は腕に力を込めて、あたしを強く抱き締める。
ちょっと苦しいけど、雅之の想いが伝わってきたから気にならなかった。

雅之の腕が、そっと緩む。あたしも緩めて、雅之を見た。
自然と瞼を落とす。雅之の顔が近付いて来るのが、息遣いで分かった。
そして──



「雅之……許さん!」



案の定、お兄ちゃんに邪魔をされた。雅之の口に右手を当て、あたしの腰に左腕を回し、引き寄せている。
力が入りすぎて苦しいんですけど…。


「ふぇいたしぇんぱい、じひつにいるんひゃなかったっふぇ(圭太先輩、自室にいるんじゃなかったっけ)?」

「あぁ。だが嫌な予感がして来てみれば…雅之!!」

「お兄ちゃん!あたしと雅之は付き合ってるんだよ。別にいいじゃない」

「だからってウチでするのは許さないからな!」

「…じゃあウチじゃなきゃいいんだ」


あたしの言葉に、お兄ちゃんはしまったという表情をした。どうやら墓穴を掘ったらしい。
ちょっぴり放心状態のお兄ちゃんの腕から逃れて、雅之と一緒にウチを出た。暫くは追ってこないだろう。


「圭太先輩、気の毒だな」

「いいのよ、あれくらい。第一お兄ちゃんは過保護すぎるのよ」

「それにしても、圭太先輩元気だな。全然落ち込んでるようには見えなかった」

「確かに甲子園には行けなかったけど、お兄ちゃんを取りたいって言う大学から沢山勧誘が来てるの。…そう言えばプロの球団からも来てた」


雅之は素っ頓狂な声を上げ、あたしに確認する。だけど本当に本当なんだから信じてもらうしかない。


「まだ大会始まってないんだぞ?それなのに県大会準決勝敗退の高校に勧誘しに来るのか?」

「そんな事言ったって…」


あたしだって信じられない。でも…


「雅之、お兄ちゃんが天才的に巧いのは知ってるでしょ?」

「あぁ。更に努力しまくってるから、かなり巧い。…そう考えれば妥当か」


高校受験の時も、お兄ちゃんに勧誘が沢山来ていた。だけどそれを全部断って、お兄ちゃんは今の高校に通っている。理由はバカみたいだけど。


「あたしも入学させないと入らないとか言いそうで怖い」

「またかよ。ったく、圭太先輩は本当に香那が大好きなんだな」


ケラケラ雅之が笑う。


「笑い事じゃないよ…。本当に大変だったんだから!」

「アハハ、悪ィ悪ィ。…香那」

「ん?なぁに?」

「オレ、圭太先輩に負けないぐらい香那が大好きだから」

「…うん。あたしも大好き」


あたしと雅之は、お互いに真っ赤になりつつ微笑んだ。




これからも、こうしていたいな。








貴方の隣で微笑んでいられる未来を下さい








「あたしマネージャーになろうかなぁ」
「!?それは勘弁してくれ」
「あたしそこまで運動オンチじゃないよ?」
「…変な虫が付くだろ。それが嫌だ」
「……うん」

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