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□朝寝坊な休日の目覚めには甘いキスを
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合宿が終わって初めての土曜日、香那はオレの家に泊まりに来ていた。オレの家にいることは、勿論圭太先輩には秘密だ(どうやら女友達の家に泊まりに行っていると言っているらしい)。
とりあえず母さんが作った晩飯を一緒に食べて、今はオレの部屋でのんびり過ごしている。オレは野球雑誌、香那は漫画を読んでいて、二人に会話は無い。
ちょっと淋しいぞ、これは。
「香那」
「ん〜?なぁに」
「暇じゃないか?」
「暇じゃないよ。だって本読んでるじゃん」
「それはどうだけどさ…」
どうやらオレの彼女は色々と鈍感らしい。
「あ、雅之」
「お、やっと気付いたか?」
「へ?何に?ま、そんな事どうでもいいんだけどさ」
「え、そこはスルーするなよ」
「何、そんなに重要な事?」
くそぅ、首を傾げる香那も可愛いなぁ(彼氏馬鹿だとは言うな)。
「いや、オレの話はいいから、香那の話は何だ?」
「うん。あのね、合宿で臨時マネージャーしたじゃない?そしたら新部長さんが、よかったらこれからもマネージャーやらないかって言ってくれたの」
「新部長に?」
香那はやりたがっているようだが、香那にマネージャーをさせるわけにはいかない。野球部の奴らはみんないい奴だし信用出来るけど、野球部に憧れを持ってる女子らが香那に手を出すかもしれない。彼氏として危険な目に遭わせるわけにはいかない。
オレは香那の両肩を持って、真っ直ぐ香那を見つめた。
「雅之、どうしたの?」
「オレは香那がマネージャーをすることで香那が傷付くんじゃないかって心配なんだ」
「もしかして野球部のファンの子達のこと?そんな漫画みたいなことはないって。心配ないよ」
「それだけじゃない。この前も言ったけど、変な虫が付くじゃん」
「…そうだったね。ごめん、雅之。あたし、そのこと忘れてた」
香那はへらっと笑うと、漫画をサイドテーブルに置いて、オレに向かって両腕を伸ばした。
え、一体これは何だ?
「雅之、ごめんなさいの代わりにぎゅーってしていいよ」
「え、マジで?」
「うん。マジで」
普段抱き締めることを恥ずかしがってあまり許さない香那が、とうとう許してくれた!?
オレは迷わず香那の華奢な身体に手を伸ばしたが――
「…………そりゃないですよ、香那さん」
そんな都合がいいことがあるはずはなく、これは全て夢だった。いや、正確に言えば香那がへらっと笑ったところまでは本当にあったことだ。
だけどマジで悔しい。
本当のところ、実は昨日(土曜日ね)香那はごめんなさいの代わりと称してバッティングセンターに付き合ってくれた。夜に行ったもんだから、あまり時間は無くてオレはそこまで疲れなかったけど、普段インドア派の香那には、見てるだけでも結構疲れたらしい。家に帰った途端、ぐっすりと眠りについた。
オレは何もすることがないから、ついでに寝た。だけど、せっかくのお泊りだったのに、バッティングセンターで終わりだなんて……
「男としてどうだろうな…」
思わず溜め息を吐くと、隣で寝ていた香那は「うぅ〜」とか言いながら寝返りを打った。
あ、丁度目の前に香那の顔が来た。相変わらず寝顔が可愛い。
寝顔は可愛いが、そろそろ起こさないとな(あれ、デジャブ?)。
「香那、もう十時だぞ」
「……う…ん…」
今日練習が無くてよかった。十時に起きたのなんて久々だ。
それにしても、香那はいつまで寝る気だ?
「香那、朝だぞ」
「……ま、さゆき」
「ん?どうした?」
寝惚け眼の香那が、オレに向かってふにゃって笑った。うわ、可愛い。
「…おはよー。なんか、朝起きて、隣に雅之がいるって幸せだね」
更に可愛いことを言い始めた。ダメだ。オレは香那が愛しくて愛しくて仕方がない。
香那の頬に手を添えて、オレは目覚めのキスをした。
朝寝坊な休日の目覚めには甘いキスを
「……!?ま、まさゆきっ」
「おはよう、香那」
「な、何でキ、ス!?あ、朝から恥ずかしいじゃない、バカ!」
「(慌てる香那も可愛い…)」