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□内緒のキス
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今日から一週間、野球部は夏合宿。甲子園球場では球児たちが白熱した試合を展開している中、我が高校の野球部は来年に向けて早速合宿が始まったのだ。
勿論、雅之は参加するから一週間会えないと思っていたんだけど…
「マネージャー!タオルくれ」
「はい。お疲れ様です」
何故か臨時マネージャーとして、あたしは夏合宿に参加している。
この前雅之に勘弁してくれって言われたのに、いつの間にか臨時マネージャーになっていた。
…でも、マネージャーである友達に人手が足りないから手伝ってほしいなんて言われたら、手伝うしかないじゃない。
「香那、無理に手伝わせてごめんね」
「気にしないで。お世話はお兄ちゃんで慣れてるから」
友達の謝罪に、あたしは笑って答えた。
友達もあたしの言葉に笑う。
「圭太先輩、元気?たまには遊びに来てくださいって言ってね」
「元気だよ。うん、伝えとく」
とりあえず友達と別れて、あたしは雅之の姿を捜した。
朝は雅之の方が早かったから、実はまだ話していない。姿は見かけてるんだけどなかなか話せなかった。
避けられてはない、と思いたいな…。
「雅之、どこ…?──キャッ」
野球部が合宿中に寝泊まりしている施設の廊下で、誰かにぶつかった。思わず尻餅をついてしまう。
「香那、大丈夫か!?」
上から声が聞こえる。この声は──
「まさ、ゆき…?」
「ん?オレだけど…」
雅之の声に安心して、力が抜ける。
良かった。いつもの雅之だ…。
「香那、どうした?」
「雅之、怒ってない?」
「へ?何でそうなる」
「だって、マネージャーになるなって言われたのに、なっちゃったし…」
あたしがそう言うと、雅之はぷっと吹き出した。
ちょっと、何で笑うの?
「アハハ、そんな事気にしてないから…寧ろ今は嬉しいし」
「どうして?」
「だって、合宿中の一週間、香那とずっといれるんだぜ?嬉しいに決まってる」
雅之はそう言って、あたしの腕を引っ張った。
そして気付けば、雅之にお姫様抱っこをされていた。
は、恥ずかしいっ!
「雅之っ、下ろして!」
「腰が抜けて動けないんだろ?オレが部屋まで運んでやるよ」
うぅ、バレてる…。余計恥ずかしい。
「雅之」
「ん?」
「……ありがと。大好き」
「…………そんな可愛いこと言っちゃうと、襲うぞ」
……雅之、本気だ。
「下ろしてー!キャー襲われるっ」
「バカッ、大声出すなって!冗談だからっ」
「ウソだ!絶対本気だった!」
「だから静かにっ……口で塞ぐぞ?」
あたしが返事をする前に、雅之はあたしの唇を奪っていた。
訊いた意味がないじゃない。
…だけど、本当はそのキスが嬉しいことは雅之に秘密。
あたしは雅之の首に腕を回して、それに応えた──。
内緒のキス
「さぁて、今日の部活は終わったことだし、オレらは別メニューをやりますか」
「……!?絶対ヤダ!!誰かにバレたら」
「大丈夫だって。みんな爆睡してるし」
「そんな問題じゃない!」
(翌日。あたしは動けませんでした)
※過去拍手より