Long

□ボールの行方
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初めて見たのは、暑い夏の日だった。
その時、彼は公園に咲いた向日葵をじっと見つめていた。
ああ、彼は向日葵が好きなんだと一瞬で解った。
だって、彼は向日葵を愛おしい目で見ていたから。
まるで、向日葵の向こうに大切な誰かを見ているようで、何故か私は胸がチクリと痛んだ。
その理由に気付くのは、彼が野球をしている姿を見たときだった。




「部長はグラウンドに行かないんですか?」

同じ美術部に所属している香那ちゃんが、私にそう訊いてきた。
香那ちゃんは私の大好きな後輩で、将来私が今している部長も任せようと思っているぐらいだ。
絵を描くことも巧いし、人望もあるし、良い子だし、香那ちゃんにはぴったりだと思う。
そして香那ちゃんは、私が好きな人の妹でもある。
でも、だからって贔屓なんてしていない。
香那ちゃんは本当に有望な人材なのだ。

「部長?」
「あ、ごめんね。でもどうして私に訊くの?」
「だって、さっきからグラウンドをじっと見てるから……」

しまった。
どうやら無意識のうちにグラウンドを見ていたみたい。
でも、まさか野球部を見ていることは気付かれていないよね?

「部長も一緒に野球部、見に行きましょう!」

……気付かれてました。
香那ちゃんは私の背後に回り、背中をグイッと押す。

「さあ、行きましょう!」

行くとは言っていないのに、私は香那ちゃんによってグラウンドへと向かうことになった。
まだ自由作品が描き途中なのに……。

でも、香那ちゃんには感謝した。
私は素直じゃないから、絶対一人じゃ見に行かない。
彼が野球をしている姿を見たい。
あの日みたいに、キラキラした笑顔を見たい。
その気持ちはいっぱいあるのに、私は見に行けなかった。
だって、彼と逢うのは恥ずかしいもの。

途中、香那ちゃんの惚気話を聞きながら、私はグラウンドへと向かった。
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