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□我が侭な王女C
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お見合いの場所は王城の広間であるために、いつもよりも一層煌びやかなドレスを身に纏ったラヴィニアは相手よりも先に席に着いていた。
目の前のテーブルには豪勢な料理が数多く並べられているが、何故か広間にはラヴィニア一人しかいない。
自分が身に付けているドレスを見て、ラヴィニアはあの日と正反対だとぼんやり思う。
最後にマリウスに会ってから一週間後、一日も彼を忘れる日はなかった。
しかし、それでは今からお見合いをする相手に失礼だ。
ラヴィニアは気持ちを切り替えようと、自信の頬を両手で軽く叩いた。
「どうやらお待たせしてしまったようですね。ラヴィニア王女、誠に申し訳ありません」
背後から声がして、ラヴィニアは椅子から立ち上がって振り返る。
相手の顔を見ずに、ドレスの裾を持ち、深々と淑女の挨拶をした。
「お初にお目に掛かりますわ。私はラヴィニア・エーメリーと申します」
ゆっくりと顔を上げ、相手の姿を漸く確認する。
その時、ラヴィニアは心臓の鼓動が止まるかと思った。
「初めまして。僕はクラレンス・バートン。バートン侯爵の次男です」
クラレンスの顔が、どことなくマリウスに似ている。
ラヴィニアは思わず止めてしまった息を、ゆっくりと吐き出した。
その様子を見て、クラレンスは不安そうな表情をする。
「どこか具合がよくありませんか? それなら誰か呼びましょう」
「いいえ、結構ですわ。ご心配、ありがとうございます」
ラヴィニアはクラレンスを席に座るよう促し、自分も座ろうとする。
すると、クラレンスがそっと椅子を引き、ラヴィニアが座りやすいようにした。
その親切な態度は、マリウスと全く似ていなかった。
(そうよ、彼はマリウスとは違う人。他人の空似よ。早く気持ちを切り替えないと……)
クラレンスが席に着いたのを確認して、ラヴィニアは話しかける。
「クラレンス様は、普段何をされているのです?」
「僕は家督を継いだ兄の仕事を手伝いながら、父の仕事を引き継ぐべく日々精進しております」
「確かバートン侯爵は、我が軍の将軍でしたわね……。あら、でもどうしてバートン侯爵はまだ現役でいらっしゃるのに家督をお兄様に?」
「お恥ずかしながら、我が家にも色々ありまして……。早急に兄が家督を継いだのです。しかし兄は文系の人間で、領地のことは全て引き継ぎましたが、軍部のことになるとさっぱりで。仕方なく僕が軍部の仕事のみ引き継ぐことになりました」
「色々とご苦労なさっているのですね」
「はい。ですが、もし僕が貴女と結婚することになれば、僕は軍部を弟に継がせなければなりません」
と、そう言ってからクラレンスは表情を曇らせる。
ラヴィニアはどうしたのだろうかと思いながら、彼の表情がまたマリウスと重なっている自分に嫌気がさしていた。
「クラレンス様?」
「その、弟がまた問題児でして……。本当にお恥ずかしい」
「あら、ではクラレンス様はバートン侯爵に信頼されていらっしゃるのですね。素晴らしいですわ」
ラヴィニアが微笑むと、クラレンスは照れたようにはにかんだ。
その笑顔は、マリウスと似ていなかった。