treasure

□あの子に勝つ方法
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「うぎゃー――っ」

スノウリバース首都郊外の、なかなか立派な邸宅のなかなか立派な中庭に、男の子の悲鳴が響き渡りました。広い広い中庭のど真ん中に、ちいさな竜巻が発生しています。その中心で風に翻弄されているのは、この家の長男坊、ダニエル・ラウファー、7歳。

「“食べものの恨みは恐ろしい”というコトワザを知らないんですの!?馬鹿ダニーっ」

怒り心頭のご様子で歳のわりに高度な魔法を次々と繰り出すのは、ラウファー家のお隣りさんにしてダニエルの幼なじみ、フローレンス・ブロン、7歳。

「あんたたちは毎日楽しそうでいいわねぇ」

呑気な感想とともに、この家の持ち主の奥さん、もといダニエルのお母さんは、脇のテーブルでお茶を啜っています。息子が虫の息ですがお構いなしです。あらいい香り、と彼女の関心は煎れたての香り高いアールグレイに逸れてしまいました。

「このっ、いいかげんにしろ馬鹿フローレンスっ」

フローレンスが次の魔法を発動させる、その一瞬の隙を狙って、なんとか竜巻から脱出したダニエルは渾身の蹴りを繰り出します。が、フローレンスは余裕の表情でこれをひらりとかわし、逆にダニエルの顔面に綺麗に蹴りをキメてしまいました。フローレンスはげし、とダニエルを踏み付けて、高らかに宣言します。

「わたくしに勝とうなんて一千万年早いですわ」
「いだだだだ!!」

ブーツの踵が背中にめり込んで、ダニエルが悲鳴を上げます。

「フローレンスちゃんには勝てないわねぇ」

お母さんは、のほほんとお茶のおかわりを注ぎながら言いました。
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