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□今年、寒さが続いた理由
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私の世界は真っ白で冷たい。
彼の世界は色鮮やかで暖かい。
私は、彼が、とても恋しい。
《今年、寒さが続いた理由》
便りが届いた。
それは、微かに甘く心がふわりと弾む香りがした。
それは桜だった。
「少し早くないか?」
「間違いありません。南から届きました」
「そうか。私はまだここにいたいのだが」
彼が来るには少し早すぎるのではないだろうか。
まだ木々は眠っているし、水も別れを惜しんでいる。
それに、彼に会うには些か私も準備が足りない。
年に一度、待ち望んだ便りなのに、先程とは打って変わって不安ばかりが私の心を支配していく。
「あの方もせっかちですからね。空も風も対応に追われていますから」
「ああ…そういえば鳴ったな。雷を起こすなど、彼は何を言ったのだか」
「大方、貴方様に早くお会いしたいと我が儘を言ったのでしょう」
かあっと全身が暖かくなる。
そうだったら嬉しいが、私は彼と一緒に過ごせる時間などあまりない。
私は疎まれ、彼は望まれる立場。
「そんなことはあり得ない」
「そう、ですか。それより便りの返事はどうなさいますか?便なら手配致しますが」
「私が渡しに行こう」
「は?」
「彼には少し時期を待ってもらう。どうせ我が儘を言うに決まっている。ならば、直接交渉しに私が会いに行けばいい」
「貴方があの方に会うことによって周りがどれだけ」
「わかっている」
迷惑かなんて、わかっている。
「でも、私はもう少しここにいたい」
でも。会いたい。
彼に。会いたい。
「まだ私のほうが強い。だから」
「また疎まれますよ」
「構わない」
「…仕方ありませんね」
ため息混じりに首を縦に振ってくれた。
彼は大層驚いた。
「まさか、会いに来るとは」
彼は笑って、私の手を引いた。
暖かくて溶けてしまいそう。
そんな私達を見て、風が眉をしかめるのがわかり、彼がたしなめる。
「交渉に来ただけだ」
「で、いつまでいるつもりだ?」
「…3月29日まで」
「また随分と」
そっと彼に引き寄せられると、桜の香りがした。