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□曼殊沙華
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―序章―





季節は冬。



俺―青柳(あおやぎ)は、すっかり暗くなった城下町を歩いていた。もちろん夜遊びではなく、仕事のため。



「仕事のためとはいえ、さすがに夜は辛いなぁ…」



もっとも、昼間は人がたくさんいるし、向こうもなかなか出てきてはくれない。夜の方が動きやすいのだ。



城下町の外れまで来ると、風が吹き抜ける草原に出た。風は次第に渦を巻き始め、俺の前にその姿を現した。



「やぁ。今夜の客は君かな?」



<…>



何も答えず、じっとこちらを見ている少年。
―いや、何も答えられず、訴えるような瞳で見つめてくる。
と、突然、尋常でない速さでこちらに向かって来た。



「話す気は毛頭無い…ってわけね」



俺はすれ違いざまに、腰に差してあった刀を抜き、少年の腹部に当てるようにして振り抜いた。



ドンッ!!!



鈍い音がして、少年の体が光に包まれた。俺は刀を鞘に収め、その様子を見守る。



ふと少年と瞳が合うと、彼は俺に向かって柔らかく微笑んだ。



少年の口が小さく動き、静かに言葉を紡いだ後、闇に溶けるようにして消えていった。



「どういたしまして」



俺の仕事―。



―霊を、在るべき処へ還すこと―。
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