幻想曲

□0_SEED,0_DESTINY.
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「私の顔に何か付いてるか?」
ハスキーな声が、無音と感じていた耳を撫でる。それは、瞬くように光る彼女から発せられたのだと、ワンテンポ遅れてから気付き、無意識の内にみつめていたのだと、届いた言葉で理解する。
「・・・ぁッ、ぇと。」
急に現実に戻されて、咄嗟に洩れたのは、戸惑いの声。情けない程、意味をなさい音ばかりが、表に現れ形となる。
「代表、どうかされましたか?」
少し遠くから聴こえた、別の声。足音が、ゆっくりと近付いて来るのが、判る。
「アレックス。」
振り返った彼女が、別の声の主-彼の名を呼んだ。
「誰だ?」
警戒さを含んだ雰囲気を纏いながら、彼が彼女の一歩前に出る。何が遭っても、直ぐに彼女を護れるように。そんな立ち位置だった。
「たまたま此処で逢ったんだ。そんな、怖い声を出すなよ、アレックス。」
「だが・・・。君、名前は?」
「・・・。」
問われた内容は、普通なら大したコトない筈なのに、今の自分には、何故だか答えるコトが出来なくて。黙っているのは、良い印象を与えないと、判っているのに、それしか術を知らなくて。ただ、風の旋律だけが、廻りを包んでいく。
「答えられないのか?」
鋭く冷たい眼差し。彼女を包み込む翡翠は、あんなにも優しさを帯びていたと云うのに。そんな当の自分の眸は、温度すら感じない、無機質の塊だろうケド。
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