交響曲

□翠の翼
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「シン…彼がキラだ。」
アスランに紹介され、シンは眼の前に現れた細身の少年に視線を移す。穏やかな紫紺の瞳、滑らかな曲線を描くはな、優しいカタチを造る口許。特別端整な訳ではないが、何処か繊細で儚げな雰囲気が、観る者を釘付けにする。別段、思い描いていたモノが在った訳ではないが、彼がフリーダムのパイロットだと云うコトは、考えにくいコトだった。

―今迄、あれ程憎んでいた人―

「ダメ…カナ…?」
そぅ云いながら差し出された手。自分の手も、キラの手も、大した違いはなく、また、汚れているのも同じ。でも、それでも、キラの手はとても綺麗にみえた。
「………。」
複雑としか云いようのない気持ちが、シンの身体を駆け巡る。けれども、それでは前に進めないコト等判っていたから、意を決して、自分の手をキラの方へと差し出した。若干躊躇いを残したその手は、ふわりと握られ、陽溜まりのように温かく包まれる。
「幾ら吹き飛ばされても―」
シンはキラの言葉にハッとなり、握られた手から、勢い良く視線を上げる。
「僕等はまた、花を植えるよ…きっと。」
シンの脳裏に、あの時のコトが静かに甦る。そんなのは綺麗ゴトでしかないと、只否定をした自分が。

―幾ら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす―

それが、あの時の自分の現実だった。煌くミドリが、一瞬にして枯れ逝く瞬間を、耀くツバサが、刹那に奪われる瞬間を、忘れられる訳もなく知っていたから。ケド…、それを知っていた筈なのに、いつからか自分も、この手で吹き飛ばしてはいたけれど…。
「一緒に…戦おう。」
泣きたくなる程の柔らかな笑み。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、どんなに哀しくても、キラのように笑えるのは、きっとその手で、沢山のモノを失って、色々なモノを攫んで来たからなのだろう。そんなキラの手が、自分の手を握ってくれるのなら。
「…ハイ!」
自分の手に、チカラがないコト等知っている。それでも、この手がいつか、キラのように、誰かを温められるように。誰かを導けられるように。誰かを…護れられるように。闘っていくのだ、現実と。

シンの明日は、まだ始まったばかりだった。
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