交響曲

□誰も知らないお伽噺
1ページ/21ページ

深い深い森の中。闇を一層昏く染めた中を、静かに土を踏み締める音が響き渡る。銀色に輝く月明かりだけが、僅かな隙間を掻い潜って、この暗闇に仄な光を齎し、その歩みを助長させていた。
「・・・寒いな。」
太陽はもう随分と前に沈み、この世界を暖めていた温度は、下がるばかり。大多数の生き物も生きる音を静め、不気味な程に息を潜めている。ずっとこんな処にいたら、淋しさに埋め尽くされて、この黒の世界に呑み込まれていきそうだ。そうなる前に、早くこの森を抜けようと、無意識に動かしていた足に、意識を込める。
「・・・の・・・で、・・・・・・を、・・・で。」
「・・・?」
微かに聴こえる、何かの音。その音は単独に聴こえるのではなく、ひとつひとつが繋がって、流れる旋律の様で。つまりは、何かの音ではなく、誰かの声と云うコトだ。
「・・・。」
こんな深くて昏い森の中に、一体誰がいるのだろう。知りたいと思う気持ちが、動かす足のスピードを増せさせる。勿論、不安も在った。もし、自分にとって危険な存在だったらと、そう考えたら、恐怖だって覚える。けれど。それでも、興味の方が勝るのだ。どうしてかは判らないけれど、この先に在るモノは、独り森の中にいる自分にとって、希望の様な光にすら感じて。逸る心は、止まると云うコトを知らずに、突き進んでいく。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ