∋記念品∈

□ファースト・キス
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中二の冬
渋谷 有利と同じクラスに成って初めての冬。
僕自身の心構えがあって、クラスメートになっても必要以上な会話はなかった。「僕」を知られるのが恐かった。
きっと渋谷をよく知ってしまえば、僕は両親でさえ知らない事もまるで押しつけるように渋谷に話してしまいそうで恐い。
だから僕は避け続けた。
渋谷も必要以上に僕と接点を持とうとしなかったからある意味好都合だった気がする。

* * * * * * 

「ファーストキス?」

渋谷の口からそんな単語が出てきて僕は読みかけていた小説をそっちのけで視線だけ後ろの席にいる渋谷達に向けた。

「バカ!声でかいって!」

一人の友人が渋谷の頭を殴った。
今までの経由がわからないが渋谷を囲んだ4〜5人の男子グループが話に盛り上がっている。
時間は放課後でほかの生徒は僕しかいない。
興味を見せず、塾までの時間を学校ですごそうと思っていたのだが… 小説を読んでいる僕は思わず頭を抱えた。

(声が大きすぎるよ…)

「だーかーら、隣のヤマダがウエダとやったって噂なんだって」

「でも 噂だろ?直接きいた訳でもないのに騒ぎすぎじゃねー?」

中学二年とは言えお年頃だ。
そんな話が放課後の教室 男子だけで盛り上がってたっておかしくはない、って言うかない方が変だ。

「へー 大人の階段のぼるーって感じ?」

どんな階段だ?
僕は小説を読み直しながら心の中でつっこんだ。
会話には突っ込みところ満載で小説よりは飽きない。でもおしだまる様に渋谷の声だけが聞こえない。

「なーに、黙ってんだよ、渋谷!」

「なに、もしかしてお前もうすませたとか!?」

背を向けているから彼の顔が見えない。
今できる事なら振り替えってそこんとこよくききたいんだけど!?

「ばっ ばか!彼女いない歴=年令の俺なのにっ!」

あまてふためく渋谷の声が聞こえた。
少し、胸を撫でおろした。

「でも、彼女じゃなくてもキスしてる奴いるじゃん!キヤマとかもそーだろ?」

キヤマは渋谷と一緒に話している奴だ。

「まー、確かに付き合ってはいない、よな…?」

「わーお、大人なセリフ!」

ちゃかす、そんな会話が後ろから聞こえる。
なんて馬鹿げた話なんだろう…、少し時間が早いけどこんな所から早く抜け出したい。
本を閉じ、カバンに本を入れて席を立つと同時に渋谷の声が届いた。

「俺はヤだな。やっぱ、そーゆうのって好きな子としたいだろ?」

「……」

僕は押し黙り、渋谷を見た。
その言葉が無性に心に残った。
今、彼に好きな子がいるんだろうか…?
そういえば、この間、体育館の裏で渋谷が女子に告白しているのを見たな…。

* * * * *

きっとこれから先も、中学時代で渋谷と話をする事はないだろう。
接することはないだろうと思っていた。
なのに……

数日後 事件は起きた。

「はぁ…」

僕はここに来てからの何度目かのため息をついた。
まわりは医薬品や消毒の匂いがしてあまりこのましくない。
場所は学校の保健室。
ついさっき4限目開始のチャイムが鳴った。
目の前にはベッド それに横たわる渋谷 有利

「はぁー…」

思い起こせば30分前…
僕は野球よりはサッカー
プレイよりは観戦タイプだ。
なんたって頭脳派な僕は運動は得意な方じゃない。
だから、授業のサッカーだってボールを追い掛けるだけで触れたりはしない。
だったのに…
ボールを蹴っていたチームメートが敵チームに囲まれ、たまたまそこにいた僕にボールをパスをしてきた。

不運だった。

あたふたしているとまわりには同じクラスなのに敵な彼らが取り囲む。
その時だった、絶対絶命な時に同じチームに成った渋谷がかけてきた。

『村田! パス!』

思いがけない事でしかもこんな状況だ。
なにも考えられない僕はわらをもつかむ気持ちで思いっきり蹴ってパスをした…つもりだった。

『あっ…』

でも実際は、ボールは見事に渋谷の顔面にめりこみ、渋谷はぱたり…と倒れてしまった。
周囲はあわてて渋谷に駆け寄った。
さすがに僕だってあわてたさ! 
まさかこんな漫画的アクシデントが起きるなんて…
気絶した渋谷は保健室にはこばれた。
ちょうど保健室のセンセはいなくて一人寝かせておくことが出来ないと渋谷の友人が付き添いを申し出たけどいくら接点をもたないようにしてた僕とは言え、渋谷を伸してしまったのは僕で…僕が付き添いをかって出た。
とは、言え…なんかどうしたらいいのかわからない。
授業中の学校
校庭ではサッカーする奴や黒板と向き合ってる奴…
この学校には何千と生徒がいるのにここには僕と彼しかいない。

二人だけの世界…――

どうしたらいいのかわからない僕は初めて渋谷の顔をまじまじと見た。
初めて…彼の顔を知った時の様に僕は彼を見つめた。それは今まで意識して彼の姿顔を見ようとしていなかった結果だ。

「……。」

――僕は彼の事をどう思っているんだろ…?

クラスメートであり、僕が知る異世界の魔王になる男だ。
ある意味、クラスメート以上に僕の人生に接点がある。
この長きに渡って苦しんできた事を唯一理解してくれる人なんだと思う。
だけど、彼はまだ魔王ではない…こんな事話しても困惑するだけだ。
僕は膝のうえに置いた拳をかたく握った。
クラスメートで魔王候補で…だから?
だから、なに?
僕はこの苦しみを一人で受け入れて行こうって思ってたんじゃないのか?
たとえ、魔王候補が同じ世界・国で生まれて一緒の学校に居たってそれを変えていこうとは思わなかったはずだ……

なのに、彼を見る度に占める心。

この気持ちはなんだろう?彼を見ると溢れるこの気持ちは……


『俺はヤだな。』

以前、渋谷が言った言葉がよぎる…。
それと同時に体が自然と動いていた。

『やっぱ、そーゆうのって好きな子としたいだろ?』

椅子から腰をあげ、中腰になり眠る彼の顔横に腕をついて覆いかぶさる。
メガネを外し、そっと唇を重ねた。
 
一瞬、世界が停止した気がした。

ゆっくりと離れて心が踊った気がして満たされた。
無意識にとったこの行動が、渋谷が自分にとって特別な人なんだって気付かされた。
これから先、どんな事が起きるんだろう?
きっと渋谷の熱血性格からして魔王になるのは必至。なら、僕は彼のために何が出来るだろう…


* * * * *

それから数年後、高校一年の春 
僕が予想した時期より早く渋谷は魔王を敬称した。
それから何回かは僕が見送ってはいたけどそれだけじゃ事すまなくなって僕も向こうに行った。
きっと以前の僕や前世の彼らでは決して起こさない行動だと思う。
確かに「大賢者」であることはこの世界では偉大な事なのかも知れないけど、大賢者自身ではない僕らはこの記憶でどれだけ苦しんできただろう。
愛したい人を信じられず、愛されたい人に愛されない出来た。

でも、僕は違う。
変われたんだ………――

「むーらーたぁ〜」

渋谷の声が頬をつたって振動する。
それが心地いい。
でも渋谷は不満と不変な声でさらに続けた。

「いい加減にしろよ! 重いんだって お前が寒いって言うからこたつの上にエアコンもつけてやったんだろー?!」

高一の春先から渋谷の家に行き来するようになり、今では寒いからと、こうやってひっついて離れない。

(僕が一方的に、だけど)

こたつに足を突っ込み暖をとる恋人の背後にぴったりとひっついて離れない。
背後から腕を回して背中に顔をくっつけて体重を預け、心地よさを味わう。

「…何、甘えてるんだよ」

「ふふ… ちょっと昔を思い出しただけ。そしたらちょっとオセンチサンに成っちゃった。」

渋谷に触れるのが心地いい渋谷の傍にいるのが幸せ

僕は顔を背中から離し、手を渋谷の頬に触れて振り向かせる。

「?」

目をきょとん、として渋谷は最後まで自分が何をされるのかわからないでいた。軽く触れるキス…

「こらっ むら… っ」

一瞬離れた顔を再度引き寄せてまたキスをした。
今度は熱い恋人のキス。
時間がたつ事を忘れていて、渋谷が僕の唇を噛んだ。

「いたっ 何するんだよー」

「しつこいんだよ! 家で盛るなっ」

口を手の甲で拭い、顔を真っ赤にして小声ながらも怒った顔を向けた。

「いいじゃん、キスくらい」

「よくありません。最近兄貴がなんか勘ぐってるんだよ!」

「尚更いいじゃーんっ あのブラザーコンプレックス野郎に見せ付けてやればー」

キスを続けようと手を動かせば渋谷は険しい顔で僕をにらむ。

「しつこい」

「ケチっ」

口を尖らせて見せても一向に折れる気配はない。
仕方がなくおとなしく背中に頬をくっつけた。

「…なんで」

「ん?」

「なんで、お前ってキス、うまいわけ?ってか好きそうだし。」

「……え?」

不服そうな顔の彼からの以外な質問に間が空いた。

「前から気になってたけど、お前のファーストキスっていつ!? 怒んないから白状しろっ」

膨れた顔がなぜか愛らしく思わずむせる様に笑った。

「…中二の冬。」

「はやっ」

「保健室。」

「なにーっなんて不純!相手は誰だよっ 中二なら俺だって知ってるはずだろっ?!」

――これは幸せ?
怒ってる、と言うか明らか嫉妬な顔する彼を見れるこの瞬間が。

僕は間を空け、にやつく顔で告げた。

「じーつーはー…」

あの時の事は僕の一生の秘密にしようと思っていたけど… 彼が驚く顔が見てみたくなった。
彼にぴたり、とひっついて耳元で囁いた。
僕が初めて君を好きに成った瞬間の事を…
あの日の保健室の事を。
囁く言葉と同時に渋谷の顔が青ざめていったのが分かる。

「しっ 信じらんねー!!人が気絶してる隙にキスするなんてっ! しかも保健室っ!」

「いいじゃん いい思い出で」

「俺の意思はっ!?」

「あの頃から君にメロメロな証拠って事で」

「っ」

真っ赤な顔して言葉をつまらせた。

「ねー 渋谷ぁ たまには君からキスしてよ〜」

「……っ」

みぎー、ひだりー、みぎーと視線をおよがせ渋谷はそっとキスをしてくれた。

『やっぱ、そーゆうのって好きな子としたいだろ?』

その言葉が渋谷自身が僕にどれだけ幸せを与えてくれるだろう。


―――ありがとう。

END.

楪 もゅら様にお友達記念でふぉーゆー致します!

かなりお待たせして本当に申し訳ございませんm(__)m

書きおわってから「これは甘いのか?」と疑問でしたが、もらっていただければ幸いです!

これからもよろしくお願いします(^^)v

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