∋記念品∈

□お粥とスケッチブックとギャルゲー
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三日前……

俺はその日からあまり眠れずにいた。

時に眠り夢みるのは、村田のあの時の思い耽った表情

『渋谷… 僕、君の事が…好きだよ』

その時の村田の声と表情が俺をこんなにも悩ませる。

あれは幻…? 夢…?

それとも………

* * * * * * 

熱い息遣いもたどたどしく、俺の思考はピークを達しつつあった。

「あー 陛下ー」

嘆く美形の王佐

それを見てなにも言わない三兄弟の長男と次男

「うるさいぞっ ギュンター!ユーリがゆっくり眠れないじゃないかっ」

更にうるさい自称俺の婚約者

…みんな、頼むから静かに眠らせてくれぇ。

あぁー 固定されてるはずのベッドがゆれるぅ〜
天井がゆがむぅ〜

眞魔国に滞在して一ヵ月あまり、俺は倒れる程の熱が出てしまったのだ。

原因は…それなりに理解してる。

「そうだ、ユーリ!僕がユーリの為に用意したものがあるんだ。病の時こそ、たーんと食べろ!」

それを言うと同時にメイドサンが部屋に入ってくるとカートに乗せた豪華な料理を俺の前に置いた。

「ユーリの為だけに作らせたものだ!さ、これを食べればすぐに治るぞっ」

色とりどりの料理に俺は絶句した。
確かに、確かにうまそうなのにはかわり無い。
だけど… 病人がうまいうまいと食べれる軽いモノなのデスカ?

ヴォルフは何事も無いように俺に手を差し伸べ体を起こそうと試みるか、正直今は眠らせてくださいって感じだ。
ひっぱられて上半身起き上がり膝の上に料理がおかれた。
その瞬間、鼻につく匂い…

「う、吐く…」

口に手を覆い、眉間にしわを寄せれば周りがばわつく。

「ユーリ!? ツワリかっ?」

僕はみに覚えがないぞっ!と、ほざく自称婚約者様 俺だってねーよっ!
一度起きた体は重力に任せてそのままベッドに戻った。
さすがにこんな弱った俺を見て周りは顔をしかめるがそんなに大げさにしないでくれ、これはただのカゼなんだから。

「入るよー」

部屋の空気を裂く様に聞き慣れたおきらくな声と同時にアイツが入ってきた。
俺は咄嗟に布団を口元まで覆った。

「猊下!」

「渋谷、熱が出たんだって? 眞王廟まで話が伝ってるよ」

苦笑いしたコイツの手には見舞いなのか、綺麗な花が手で掴めるくらいの束が持たれていた。
それをコンラッドに渡すとベッド際度まで近寄ってきた。

「猊下! 陛下の熱が下がらないのです、もしや他国の輩の呪いなのでは…又は奇病…」

涙目に成り訴えるギュンダー それを無視して村田は…

「渋谷さーん 口をあけてくださいねー」

あどけなく笑うコイツにむかつく。
不満げな顔を向けたがすぐに言われた通りに口をあけた。

「うーん、やっぱり。」

もったいぶった間を置く村田。

「カゼだね! 完璧っ」

村田の発言に俺は思いっきりうなずいた。

「カゼだと!? 馬鹿なっ ユーリは吐き気を訴えてこんなに弱ってるんだぞ」

「吐き気?」

村田は横にある豪華な食事に気付く。

「あーー……」

哀れんだ呆れた顔になり村田はヴォルフをみた。

「ユーリは大きな病気なんだ! じゃなきゃツワリ…!?」

自分で口にして青ざめていった。
それに尽かさず突っ込みを入れたのは村田だった。

「へー…つわりって、身に覚えがあるんだーぁ?」

「!!!?」

暗黒に染まるような、人を見下した視線のヤツの顔が恐い……

「ま、冗談はさて置き」

「っ」

村田の伸びる手に咄嗟に体を強ばらせた。
村田は無意識なんだろう、俺の額に手を触れてヴォルフ達にむかって告げた。

「呪いでもつわりでもないと思うよ。熱は少し高め見たいみたいけど…ま、食べて寝たら治るでしょっ」

村田の手が離れない…
村田が触れるその場所が熱の所為がとても熱い。

「つわりらしい吐き気はきっとこれだね。いくら渋谷でも病気の時にこんな豪勢な料理は受け付けないんじゃないかな〜 あとでおかゆ作ってあげるよ」

村田はあどけなく、本当にやさしそうな表情で俺に言いのけた。
それを見ただろう、ヴォルフ が恐れ多くも村田に突っ掛かった。

「なんでカゼだと言い切れるっ なんで冷静でいれるんだ、貴様がカゼだと言える根拠は!? まさか、原因に貴様が加担しているんじゃないだろーなぁ!」

ヴォルフ、なんて鋭い…

「加担、って言うか……」

うーん、と考えこんだ村田は額に手をのっけたまま、覗き込んで言った。

「…ゴメンね?」

その言葉に周りがどお思い、勘違いしたのかはそれなりにわかった。
ギュンターは嘆き、ヴォルフは叫び続けている。

あーもうっ!!

「おばえら、いーいがっ」

自分さえも引く位、声が出ない……
俺は起き上がりベッドサイトに置いてあるスケッチブックと羽ペンを奪い取るとさらさらと文字を書き綴って奴らに見せた。

「なんて書いてるんだ?」

「地球文字ですね」

「なになに? お前等いい加減にしろよ!俺は病人なんだからゆっくり寝かせてくれ! だってさ」

その言葉にコンラッドが深くため息を吐き、嘆き叫ぶヴォルフとギュンターの首根っ子を掴み村田に振り返った。

「申し訳ありませんが、猊下。我々はここで引き上げますので陛下の看病をお願いしてもよろしいでしょうか?」

なぬっ!?

「きっと陛下も我々に騒がしく看病されるより事情を知る貴方に見てもらう方が楽でしょうし…」

なにを申し訳なさそうな顔で言っちゃってるんだよ、コンラッド!!

「うん、いいよ」

言うと思った。

俺は慌ててペンを滑らせコンラッドに見せた。
と、思ったら村田の手がスケッチブックを伏せさせた。

「げ、猊下? 陛下はなんと?」

地球の日本語を知るコンラッドだけどコンラッドか読み取る間も無く伏せられたスケッチブック。
伏せた当人は笑顔で…

「大っ親友の村田に任せる、だってよ」

なに、イケシャーシャーと…!!

「そうですか、それはよかった。それでは猊下、よろしくお願いします。」

「はいはーい」

泣き叫ぶヴォルフやギュンターを軽がると引きずり部屋を出ていく。
それを惜しんで見送る俺と笑顔の村田。
皆が部屋を出て行き、最後にコンラッドの背中が振り返った。

「あ、猊下。くれぐれも弱ってるユーリに“オイタ”しないでくださいね?」

村田にも負けないくらいのどす黒いオーラを背中に宿し、コンラッドは部屋を出ていった。

「うーん、彼も渋谷狙いかな〜?」

推理する様に頬に手をあてて頷いて見せた。

「ねー、渋谷 どうおも…」

村田が背中を見せているスキに…俺はそろり、とベッドを抜け出したが村田は素早くパジャマの襟を掴んでベッドへ引き戻した。

「ヤ、無理だから」

俺は手足をじたばたさせてベッドから、いや村田から離れようと試みるが熱の所為で体からうまく動かない。

「だーいじょうぶだから」

村田は思いっきり俺を引き寄せてベッドに沈み込ませると布団を肩までかぶせた。

「いくら僕だって弱ってる相手を犯したりなんてしないからさ」

「……」

俺はじー、と村田の顔を不信な目で睨んだ。
信じられないわけじゃない、ただ、村田ならやりかねないと思ったからだ。

「おとなしく寝てなよ。おかゆ、作ってきてあげるからさ。」

そう言った村田はサイドテーブルの上の桶とタオルを持って部屋を出た。
扉が閉まる瞬間、村田は背中ごしに

「ちゃんと寝てるんだよ」
と言った。
ぱたん、と扉が閉まったと同時に俺は深いため息をついた。

なんでこんな事になってしまったんだろう…


こんな熱が出るのも…

こんなに村田に悩まされるのも…

あの日の事が忘れられないのも…

全部が全部アイツが悪い…!
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