∋記念品∈

□トイレに篭る君
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人間、病になると弱気になるっていうじゃない?

僕だって一様人間だし?

病気になったりするし、さびしくなったりするわけよ?

でも、そんな時に傍にいて付き添ってくれる相手がいるってどんなに幸せなんだろうって、思わない?


その相手にナースなナイスな服を着てもらえたら…、

ああ、なんて素敵なことなんだろう。

* * * * * * * * *

「…お前、心の声が漏れてるぞ?」

「へ?」

僕はきょとん、とした顔で渋谷を見上げた。

眉間にしわを寄せて、「来るんじゃなかった」なんて顔で訴えている恋人を見て思う。

「うーん。やっぱりいいよ。ナース服!」

「脳外科行くカー? 眼科行くカー? ちなみに今じゃナースじゃなくて看護士さんっていうんだゾぉ?」

眉間にしわを寄せた彼は僕を看病する為に水をはった桶とタオルに氷枕を持って部屋に入ってきた。

冒頭でも行ったとおり、僕だって病になる。
これでも僕は繊細なほうだ。
病気になればさびしくなるし、一人になるのが怖くなるときだって…たまにはある。

決して、やましい気持ちでカゼをひいて両親がいない家で寝込まないといけない僕を看病してほしくてだだをこねたわけじゃないからね?

「いやー。ラッキーだな。こうやって渋谷が看病に来てくれるなんてさ」

「そりゃー、あんだけ死にそうな声でヘルプの電話かかってきたらな」

うっわー、渋谷の冷ややかな視線。

「言っとくけど、絶対ナースは着ないからなっ それと、病人なら病人らしく座ってないで寝てろよ」

渋谷は桶等を床に置くと僕を無理にベッドに寝かせ、布団を深くかぶせる。
幾らカゼ引いているからって、家中の毛布をかけられたら息苦しくて眠れやしない。
渋谷らしいといえば渋谷らしい、病人の看病の仕方だ。

「…何、にやついてんだよ。」

「えー? だって、幸せだなーって思って」

「幸せ?」

「うん、初めて渋谷に押し倒され…」

「死ねっ」

渋谷は僕の最後の言葉をさえぎってぬれた冷たいタオルで僕の口元を抑えて封じた。

「おとなしく寝てろよな、全く!」

冷たい視線で僕を睨み見下ろす渋谷は再度立ち上がり部屋を出て行こうと背中を僕に向けた。

「ちょっと、どこ行くの?」

「何? さびしい?」

「…別に。」

「台所。お袋がお前にって、作ったスープを持ってきたんだよ。今暖めてやるから食えよ。んで、薬飲んで寝ろ」

「今日は泊まっていってくれるんだろ?」

「……うーん」

渋谷は部屋を出て、扉を閉めるその瞬間に振り返り意地悪い笑みを浮かべて言った。

「大人しくしてたらな」

ぱたん……。

と、病人を労わる優しい音でドアが閉まった。

「よく言うよ、」

もう、お泊りセット持ってきてるくせに。

僕は視線だけを動かし、机の脇に置いた渋谷が持ってきたカバンをとらえた。


* * * * * * * *

「なんでアイツはいつもあーなんだ??」

有利は行き来する村田家で不慣れな手つきでポットからスープを鍋に移し暖めなおしていた。
綺麗でシステムキッチンに立つのは初めて。
いつも村田の家に泊まるときは外で何か食べるか買ってくるかで台所で食事の準備をすることはない。
ましてや家でも家事手伝いをしない有利は不慣れで周りが心配するほどの手つきで準備をした。
皿を用意して盆にのせ、スプーンとコップを探す。

「えっと、どこにあるんだ?」

有利は村田とは違い、相手の家の台所にたたないから何がどこにあるかを把握していない。
食器棚に手を伸ばし、引き出しを開けていくがスプーンが見つからないでいた。

「まったく、こんなことだったらスプーンもってくればよかったよ」

幾ら探しても見つからない。

「あーあ、今頃みんななにしてるかなー?」

学校や草野球チームの友人を思っているわけじゃない。
今、有利の中にあるのは、眞魔国
自分が統一している多くの仲間がいる場所を思い浮かべていた。

「そういえば、最近は期末試験とか野球とかで中々向こうに帰っていないよなあ。グレタが焼いてくれたクッキーが食べたい、コンラッドとキャッチボールしたいー」

思えば思うほど懐かしくなるあちらの世界。

「そうだ、村田の体調が戻れば一度向こうに帰ろうかな! うん、そうしようっ」

引き出しを開ける、そこには有利が捜し求めていたスプーンが連なって並んでいた。

「あった。」


その時だった。




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