∋記念品∈

□10年後は…?
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[お待ちなさい!グウェンダル!!]
血盟城に今日も元気な声が響く。声と共に2人分の足音。
小柄な割に速い脚&力強い腕。揺れる赤い髪,毒女アニシナその人だ。
[お行儀わが悪いですよっ]
アニシナから逃げ続けているグウェンダルは,顔を見る限りかなり必死になって逃げているようだ。
[むむむ…相変わらず逃げ足が速いですね…]

[あれ?アニシナじゃないか。おはよう]
アニシナの前に1人現れた人物は…
[おや,猊下。おはようございます]
双黒の髪と目を持つ,大賢者こと村田健その人だ。
[また追いかけっこ?フォンヴォールテール郷も頑張るねぇ]
廊下の端にグウェンダルがいる。こちらとの間にかなり距離があいていて,アニシナの様子を伺っているようだ。
村田がグウェンダルを,のんびり見ている間アニシナは村田をジッと見ていた。

[猊下,今は何を?]
[渋谷に用があって,探してる所]
じゃあね,とクルリと背を向け歩き出した村田を後ろからガシッと掴む。
[…と言う事は,今は暇なのですね?]
[え?]
アニシナは勝ち誇った笑みを浮かべ,村田を見やる。
[グウェンダルは足が速くなってしまって,なかなか追い付けないのです。全くお行儀わが悪い。軍人ともあろうものが]

これだから男は…とブツブツ言いながら,村田を自分の部屋へ引っ張って行くアニシナ。
[あ,あの…ちょっと…アニシナ?]
当の本人は村田の声など聞こえないようで,そのまま自分の部屋まで連れ込んだ。
部屋には大人1人入れるような,どでかい装置…。
[…なに…コレ…]
茫然と見上げる村田に,アニシナが胸を張り説明しだす。
[これは私の全てを塗り込んで作り上げた,世界一のもにたあです!!]
塗り込んで…?まぁ,突っ込まない事にしよう。
[へぇ…どこらへんが世界一なの?]
村田の質問に,待ってましたとばかりに張り切り出す。

[このもにたあは,現代の自分と10年後の自分を入れ替える事が出来るのです!!その名も…『現代の自分にサヨナラ〜これからは,新しい自分と共に生きて行くんだー!!!ちゃん』です。略して『んだ!!!ちゃん』]
略の意味が,分からん!!思わずツッコミを入れそうになり押し留める。
全く…僕はボケ担当なのに。ツッコミは渋谷の仕事だ。
[へぇ…入れ替えるか。すごいねぇ]

[私の全てを詰め込みましたから。因みに私達,魔族にとって10年後は何ら変わらない日常です。なので,陛下と猊下専用に作らせて頂きました]
[うぇぇ!?じゃあ…最初から僕は,ここに来る運命だったの!?]
当たり前ですと言わんばかりの顔で,頷かれた。
じゃあ,どんなに足掻いても逃げる事は無理だったと言う事か…。
[最初から陛下や猊下に使うのは,心が痛みましたのでグウェンダルに…と思ったのですが,あの男…思ってたより学習能力がありますね…]

何かブツブツと言い出したアニシナはほっといて,村田はその10年後に居る自分と入れ代われるという装置を見つめていた。
10年後の僕は…何をしているのかな…。
僕の隣には,誰がいるのだろう…。今の自分の隣に居るのは,渋谷有利だけど10年後は違うのかも知れない。
[アニシナ,これやらせて]
村田の言葉に,アニシナがパッと顔を上げた。
[では猊下,ここにお入り下さい]

確かめたかった。10年後も変わらない事を。
アニシナに指示された所に入ると,ビーと音を立てて扉が閉まった。
装置が動き出す。体がフワリと浮く…一瞬,ほんの一瞬だけ目の前に人影を見た気がする。
その人は,ニッコリ笑って僕に手を振った。一目で誰だか分かったその人に,僕も手を振り返した。

[…成功しましたかね…]
装置が動かなくなったのを確かめ,アニシナは扉をジッと見ていた。
ビーと音を立てて扉が開き,中から人が出て来た。
[やぁ,アニシナ。久しぶりだね]
その声は,先ほどまで聞いていた声より若干低く,大人の男の声だった。
薄く笑う顔には優しさを帯びていて,元々小柄なアニシナが結構小さく見えるほど大人になった村田の身長は伸びていた。

[成功ですね。これは今後の研究に大いに役立ちます]
嬉しそうに言うアニシナと,それを見守る10年後の村田。
[ところで猊下。すぐお帰りになりますか?]
アニシナの言葉に,村田は首を振る。
[いや,有利に合ってから帰りたいんだ]
[おや<渋谷>ではなく,お名前で呼ばれるんですね]
いろいろあってね,と笑う村田に意味深な視線を投げかけられた。

[…では,陛下をお呼びしましょうか?]
[そうしてくれると,有り難いな]
では早速と,兵士を呼び(兵士は急に大人になった村田を見て,かなり驚いていた)陛下を連れて来るように,と言った。
それも5分以内に。
兵士は,慌てて走り出し村田とアニシナに深く令をして部屋を出て行った。
[では猊下,陛下が来るまで少々お待ち下さい]

そう言いながら村田の服装を見て,
[その格好より,すーつとやらの方が似合いそうですね…]
と言い,着替えて下さいとばかりに村田の前にスーツを置いた。
[これ…どこから?]
それは,どこからどう見ても本物のスーツだった。
[お忘れですか?今日から3日程前に,あなたが眞魔国の仕立て屋に注文なさったのですよ。それが今日届きまして]

広げてみたスーツは,10年前の自分の物だから些か小さいと思ったが,やはりそこは村田健だ。
大人になっても着れるように工夫が施されていた。簡単な糸をほどくと,生地が長くなるように作られていたのだ。
[へぇ…]
10年前の自分に,感心した10年後の村田だった。
着てみるとピッタリだった。ついでにネクタイも締めてみる。

[お似合いです,猊下]
とアニシナが言った時,ノックの音。
[おや,来たみたいですね]
入りなさいと言い,扉が開く。扉の向こう側には驚いた顔の渋谷有利がいた。
[む…らた…?]
呼ばれた本人は,スーツ姿でニコリと笑い静かに有利に近づいて行った。
[有利]
そう呼んで,有利の前に跪き手を取って甲に優しく唇を付けた。

[な…!な…!]
一気に顔を赤くした有利を見て,変わらないあの笑みを零す村田。
[陛下が混乱しているようなので,説明致します]
アニシナの登場に,慌てる有利。村田はスクッと立ち上がり,有利の隣に並ぶ。
[今あなたの隣にいる猊下は,10年後の猊下です。私の世界一の装置『んだ!!!ちゃん』を使い,10年後の自分と入れ代わったのです]

[10年後の村田…?]
自分の隣に立つその人は,かなり大人っぽくなっていて顔つきも少し変わっている。何より身長が高い。
[アニシナ,しばらくここに居ていいかな?]
村田は,そう言った時点で有利の肩に手を回していた。
[構いませんよ]
そうアニシナは返して,クルリと背を向ける。
[ありがとう]
行こう,と有利の背を押して大人になった村田は部屋を出た。

廊下をコツコツと歩く音がする。歩いてる間も,村田は有利の肩を抱いたままだった。
[本当に…村田…?]
上目使いで聞く有利に,薄く笑う村田。
本当に…別人みたいだ。10年後の村田は,こうなってるんだな…。そして…なにより格好いい…。
と,そこまで考えて有利は顔が赤くなった。
[どうしたの?]
口調は村田そのものだが,声が若干低い。
大人の声だ…。

思わずボーとしてしまう。
[何?誘ってるの?]
見慣れた黒い笑み…。
[なっ…!んな訳ねぇだろっ!!]
言い返すとクスクスと笑われる。中身は何にも変わってなかった。
歩いて着いた先は,村田の部屋。
[何も変わってないねぇ…]
自分の部屋を見渡しながら,そんな事を呟く。
[なぁ…村田…]
[ん?]

急に頭をよぎった不安。10年後…村田の隣に居るのは…。
呼んだまま黙ってしまった有利を,トンッと壁に背を向けさせた。
[大丈夫,今の僕の隣には…君がいるよ]
そう言って,唇を重ねた。
[んぅ…!]
唇の隙間から舌を滑り込ませ,絡める。
[んふ…ぅ…!]
糸を垂らしながら舌を離す。
[は…ぁ…は…]
力が抜ける…ズルズル壁を背に座り込む。

[有利…抱いてもいい?]
投げ掛けられたその質問。自分の事を名前で呼ぶその人に…自分は抱かれていいのだろうか?
10年後も気持ちは変わらない。変わるつもりなんかない。でも…
[………]
自分の前にいるのは10年後の村田で。悪く言ってしまえは全然知らない人で…。
[…ごめん,嫌だよね]
傷ついた風もなく,まるで答えなんか分かっていたように薄く微笑む。

[ごめん…村田。俺は,今の村田が好きだから…10年後も気持ちは変わらないと思うけど,でも…]
どう言ったらいいか分からなくなったらしく,黙ってしまった。
[分かってるから…大丈夫だよ,有利]
そう言って優しく唇を重ねた。
キスだけは,今も変わらないんだな…。
[じゃあ僕は,そろそろ帰るよ]
立ち上がり,部屋を出て行こうとする。
[あ…村田!…ありがとう]
うん,と笑って村田は出て行った。

それから30分後,扉が開いた。そこには,今の俺と同じ年.背の村田が立っていた。
[渋谷]
そう呼んで抱き締めてくれる,村田。
[…10年後も,僕等は一緒だったよ]
[知ってる…]
急に村田はガバッと顔を上げると,
[ねぇ,10年後の僕は君になんかして行った?]

[え?…キスされたけ…]
<ど>を言う前に,唇を塞がれた。
[…っん…]
温かく柔らかい唇…舌も絡め合い,音を出す。
[んぅ…!ぁ…ん…!]
いつもより,激しい…息が続かない…。
唇を離した村田の顔は些か不満そうで…それは,まるで…
[もしかして…10年後の自分に嫉妬したの?]

[悪い?]
ムスッとしたように言う村田。
可愛い…そう思って笑ったのが間違いだった。
村田の顔に徐々に黒い笑みが広がる。
ヤバい!と思った時には,もう遅かった。
いきなりベッドに押し倒され,馬乗りになられた。
[ちょっ…!]
[そんなに僕にヤキモチ妬いて欲しいの?]
[や…そういう訳じゃ…]

[そうならそうと言ってくれればいいのに。素直じゃないなぁ…渋谷は]
そう言いながら,何故か俺の服のボタンを外しにかかる村田。
[や…あの,ちょっと…村田?]
はだけた胸に村田がキスをする。
[ん…!ぁ…や…!]
ビクンッと体が反応する。
[ぁ…んっ…!]
体が熱い…一気に体温が上がる。呼吸が…乱れる。

[心配しなくても,僕は君の物だから]
そう言って脱がせたシャツで,俺の両腕を縛る。
[この気持ちは,10年後も20年後も今も変わらない]
体の至る所に村田のキスが降り注ぐ。
[ぁ…はっ…]
[好きだよ,渋谷]
舌が…指が…体の線をなぞって行く。
[ん…ァ!…む…らた…]
[もっと僕を呼んで…渋谷]
唇を重ねられ,舌が絡み合う。
…俺だって,10年後も20年後も今も村田を好きな気持ちは変わらない。

いつまでも俺の隣に居てくれ…
そう思った。言葉には出さずに心の中で言った筈なのに…。
[当たり前でしょ]
そう言われ,結局いつもより激しく抱かれた…。


END

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