∋記念品∈

□遊園地でドッキリ
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[え?デート?]
ここは,俺と村田の家から結構近い所にある市立図書館だ。中間テストの点があまりにも悪く村田に泣きついた所,再テストに向けて勉強を教えてくれる事になったのだ。
[ば,バカ!声でかい…って…]
当然,図書館と言ったら静かに読書を楽しんだり静かにカリカリと勉強したりする所だ。自分が出した声が思ったより大きく,慌てて小さくする。周りの人がチラチラとこちらを見たが,気にしてないみたいだ。
俺の目の前に座る村田は,飽きれたような視線を投げてくる。お前のせいだろ!と言ってやりたい気持ちを抑え,今度はヒソヒソ声で話す。
[デートじゃなくて,再テスト終わったら遊びに行こうぜって話し]
[でも,それってデートでしょ?]
ん?と首を傾げてこちらを見る村田は,有無を言わせない目をしていた。
[……]
[デートなんて久しぶりじゃないか。楽しみだね]
やたら笑顔な村田に比べ俺は嬉しい筈なのに,何故か嫌な感じを覚えたのだった。


再テストも無事終わり,天気の良い土曜日。この日は1日晴天が予想され,正に小春日和。今まで寒かった分,暑いくらいだった。
[いやーテストも終わったし,天気も心も快晴快晴]
[最初からちゃんとやれば,苦労する事もなかったのに]
村田の小言が聞こえたが,聞こえないふりをする。最初から気分が落ち込むような事言わないでくれよ…。
[遊園地久しぶりだなぁ〜]
話題をワザとずらし,見えて来た遊園地に目を向ける。そこは,俺が小さい頃から行っていた思い出のある遊園地にそっくりな所だった。昔,父さんから何回も同じ乗り物に乗せられたものだ。父さんは,将来絶対役に立つと言っていたから…あれがスタツアの練習だったのか?と最近思うようになって来た。…という事は,父さんは…
[何ぼーっとしてんの?]
ハッとして顔を上げると,数歩手間にいる村田が首を傾げて俺を見ていた。
[あ,ごめん…よーし!最初はジェットコースターだ!!]
[ぇえ!!ちょっ…待って!渋谷…]
嫌がってる風な村田を無理やり引っ張って行き,遊園地に乗り込んだ。

[いやっほーー!!!!]
ジェットコースターの一番前に座り,両手を上にあげ叫ぶ。隣に座っている村田は眼鏡を外し,手すりをしっかりと握って目をギュッと瞑っている。ジェットコースターが止まるまで,村田はずっと動かなかった。
ジェットコースターが止まり,明暗のハッキリついた2人が降りて来る。村田の後ろには黒い影が目に見えて見えるようで,一気に痩せたように頬が削げた感じだ。ま,これは半分以上フィクションだけど。あながち嘘ではない。村田は長イスに腰掛け,子供に付き合って遊び疲れたお父さんみたいだ。
[……村田ってジェットコースター苦手だったっけ?]
村田の周りにだけドヨーンとした空気が漂っている。
[…あれだけは昔から苦手なんだよ…]
声にも元気がないので,流石に心配になって来た。何か冷たい物でも買ってこようか…。
[村田,俺なんか買って来るから。ここで待ってろよ]
う〜ん…と若干唸り声のような声を上げながらも,了解したようだ。チラリと後ろを見つつ,店が立ってる所まで急ぎ足で行った。

何買おうか………ん?
店の前の貼り紙には<新発売!!世界一濃厚なバニラアイス!!>とある。
[…世界一濃厚…?]
どのくらい濃い味なのか…一回気になったら,忘れようとしても目線はそちらへ行ってしまう。……で結局,
[すみません,バニラアイス1つ下さい]
買ってしまった。ミルク特有の香りがし販売員のお姉さんが,どうぞと渡してくれた。あと村田ようにスポーツドリンクも買った。だって(変な)汗かいた後だし。
[お待たせ〜]
帰ってみると先ほどより顔色が良くなった村田が待っていた。左手に持っていたスポーツドリンクを渡し,自分はアイスを食べる。
[バニラアイス?]
俺の手の中にあるアイスをチラリと見て,村田が聞く。
[世界一濃厚なんだってさ]
パクリと一口。……うん,確かに濃厚だ。ミルクの味が濃くて,冷たいミルクを飲んでいるかのような…。でも,マズいって訳じゃない。
[渋谷,溶けてる溶けてる]
村田に指摘され,自分の手を見ると暑さでアイスがどんどん溶けて行く所だった。慌てて食べるも追いつかない。手には溶けたアイスが白い液体となって,ベタベタする。
[しょうがないなぁ]
長イスに座って俺を眺めていた村田が徐に立ち上がると,ベタベタになったおれの手を取りその指を自らの口に入れた。

[ちょ…!]
[渋谷はアイス食べててよ]
そう言うと,溶けたアイスがついている所を丁寧に舐め始めた。こんな事されたら,落ち着いてアイスなんか食べられる訳がない。
[やめ…村田…!]
手が震える。その間にもアイスはどんどん溶けて行き,俺の指を伝い落ちて行く。その落ちて行った液体を村田の舌が追って行く。それは,どんどん上に行き溶けかかっていたアイスをペロリと舐める。その動作が,アノ時そっくりでドクンと心臓が鳴った。
[…感じた?]
上目使いで,笑われ顔が一気に朱に染まる。
[ば,バカ!んな訳ねぇだろ!]
無理やり村田から自分の手を引き寄せ,呼吸を整える。その拍子にボトリとアイスが地面に落ちてしまったが,今の俺には全然気にならない事だった。
[あーあ,もったいない]
背中の方から呟きが聞こえたが,聞こえないふりをしてずっと背を向け続けた。
[…渋谷,次はお化け屋敷に行こうか]
[は!?お化け屋敷!?い,いやだ!絶対いや…]
今度は僕に付き合ってよ,と強引に腕を掴み嫌がる俺をズルズルと引きずるように連れて行った。

[きゃぁあああ]
お化け屋敷の中は肌寒くて,不気味な音楽と時々女の人の叫び声が聞こえた。生暖かい風が吹き,頬を撫でる。入り口から入って早速驚かされた俺は,期待通りの奇声を発した。
隣にいる村田の存在を確かめる為に,服の裾を掴もうとするが空を切るだけで終わってしまう。
[…あれ…?村田…?]
隣を見ると村田の姿はなく,いつの間にか1人暗闇に立っていた。
[村田ー!おーい!!]
心細くなって叫んでみたが,反応はない。ただ生暖かい風が吹き,不気味な音楽が流れるだけ。…と数歩歩くと,暗がりにボンヤリと村田が立っていた。
[あ,村田…!どこ行ったのかと…]
安心して村田の所まで近づき,肩に手を置く。
[なぁ〜にぃ〜?渋谷〜?]
振り向いた顔は……!
[ぎゃぁあああ!!!!!]
鼻も目もなく,口だけがニヤリと笑っている顔だった。村田が…!村田が…!のっぺらぼうに…!!それ以降の俺の記憶はない。




[ん…]
気がついたらベンチに寝ていて,額に濡れたタオルが乗せてあった。目を開けると,すぐ傍に頬杖をついた村田がいた。
[気がついた?]
…ちゃんと目も鼻もある。口も笑っていない。俺の知ってる村田だ…。
[ごめんね,渋谷が気絶する程驚くとは思わなくて…]
本当に申し訳無さそうに言う村田が隣にいた。その顔に手を伸ばし,頬に触れて感触を…体温を…確かめる。温かい…。
[…渋谷]
ごめん,と俺の手をとり唇を寄せる。手の平に村田の唇の感触がして,ピクリと無意識に体が反応してしまった。
[…っ…]
もう,お化け屋敷での出来事なんか頭になくてアレは夢だったんだと思う事にした。だって,村田の顔が…のっぺらぼうなんて…そんな事ある訳が…
[村田…アレって…あの,のっぺらぼうって…]
[アレは,知り合いに貸して貰ったんだ。ちょっと脅かすだけのつもりだったんだけど…]
…じゃあ,アレは現…実…?
また気を失いそうになってしまった…。



帰り道,俺と村田は始終のっぺらぼうの事について話し合ってた。アレは自分の顔に被せるだけで,のっぺらぼうになれる簡単な物で決して特殊メイクでは無いらしい。…それにしては,ヤケにリアルだったような…。あんまり覚えてないけど。
[驚いて気絶したのって俺,初めてだな…]
空を見上げながら,ポツリと呟く。
[感じ過ぎて気絶した事は,あるよね]
[……村田!そういう事を,公共の場で言うんじゃない!!]
朱に染まった俺に,村田は本当の事でしょ?という目線を送る。
[……!!]
何も言えない俺に,天使…いや悪魔のような笑みを向ける。村田が足を止めたので,辺りを見渡すと俺の家の前に着いていた。
[今日は,ごめんね渋谷。でも楽しかったよ]
そう言って,俺の頬に軽くキスをした。
[じゃあね]
くるりと背を向けて歩き出した村田の服の裾を,キュッと無意識の内に掴んでしまった。くんっと村田が引き止められる形になり,くるりとまた向き直った。
[…何?しぶ…]
[…ない]
[え?]
[…足りない]
そこで今まで下を向いていた有利が顔を上げ,顔を染めながらも真っ直ぐ村田を見る。
[ほっぺにキスだけじゃ…足りないよ。村田…]
だから…と言ったまま,また顔を下げてしまう。沈黙が流れたが,徐に村田が口を開いた。
[…今日,僕んちに来る?]
そう問うと,コクリと頷く有利。
[じゃあ,行こう。珍しく渋谷が誘ってくれたし]
村田の言葉に,有利の顔と耳は益々赤くなり湯気が出るんじゃないかと思うくらいになった。村田が歩き出すと,有利もついて来る。そして服の裾を掴んでいた手に村田が自らの手を絡ませる。



[気絶するくらい感じさせてあげるよ]
真っ赤になった有利に言うと,有利は何も言わなかったが手を握りしめる力が強くなったのは分かった。
村田は驚きつつも,ニヤリと笑い早速今夜の事について考え始めた。




END

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