∋記念品∈

□君とたい焼き、そして僕
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「………」

じぃーっと手の中の甘い魚を見つめるのは僕の恋人の渋谷有利。
腹黒名付け親や煩い婚約者、汁に二頭筋にむっつり長男を蹴落としてやっと僕が手に入れた大切な人。
そんな大切な人は久しぶりに僕と二人っきりだと言うのに僕ではなく手の中の甘い魚を見つめている。

(まぁ、有利がたい焼き食べたいって言うから僕が買ってあげたんだけど…)

そこまで僕に見向きもしないでたい焼きに夢中になられるのもなぁ、と思っていたら、不意に有利は僕に顔を向けた。

「なぁ村田」
「何だい渋谷?」
「お前たい焼きってどこから食べる?」
「え…?」

じっ、と真剣な眼差しで言われたのはそんな質問。

(え?僕はたい焼きをどこから食べるかに負けたの?)
「…村田?」
「あー…どこからでもいいんじゃないかなぁ?」
「口からじゃないのか!?」
「渋谷、何でそんなに必死になっているんだい?」
「必死に何かなってねーよ!」

有利は、そうか…口からじゃないのか…、何て呟いてまた手の中のたい焼きを見つめている。
何がそこまで彼をたい焼きをどこから食べるのかと言うことに食いつかせるのか。

「渋谷、食べないと冷めちゃうよ」

たい焼きを食べようと口を開いた時。

「あーっ!」

急に有利が声を上げるものだからたい焼きにかぶりつけなかった。

「なっ、何だい?」

有利は僕を指差したまま口をぱくぱくさせている。
そんな小さな動作がかわいらしい。
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