∋記念品∈

□君の全ては僕のもの
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眞魔国応接室。
そこには、珍しい二人組がいた。片方は壁に寄りかかり、片方は椅子に座り優雅に紅茶を飲んでいる。紅茶から立ち上る湯気が眼鏡を曇らせ、その事に薄く微笑しながらも眼鏡を外した村田は柔らかな布で曇りを取った。



片方の壁に寄りかかっている方は、紅茶のおかわりを注ごうと前かがみになる。その拍子に、胸ポケットから一枚の写真がヒラリと丁度村田の目の前に落ちた。

「おっと、失礼しました」

如何にもワザとやったような行動、そして写真に写っていた物を見て村田の眉間に皺が寄った。

「…ウェラー郷…。いつもソレ持ち歩いてんの?」

やや棘のある声音だが、コンラッドは気にした風もなく笑顔で「はい」と言う。写真には、幼い時の美子ママによる女装した有利が写っていたのだ。幼い時という事は、村田と出会う前の話しになる。
コンラッドは有利が生まれた時から、もう既に有利に会っていた。有利自身に記憶がないにしても、コンラッドの存在は有利の中に大きく残っていた。

「猊下は持っていないのですか?」

心底驚いたように、だが何処かワザとらしい表情が村田の神経を逆撫でさせた。

「残念ながら、持ってないね。けど、その代わり…」

村田は此処で言葉を噤み、余裕な態度の彼をチラリと見る。果たして次の言葉を紡いでも、彼の表情は変わらないだろうか…?

「毎晩、可愛い渋谷の寝顔が見れるから。それに、これは秘密の話しなんだけど…この間コスプレして貰ったから」

最初は温和な表情を崩さなかったコンラッドが、村田がどんどん話す内に本性を現したのか雰囲気が変わった。温和な笑顔は何処に?と思ってしまうほど、無表情に近い顔をなり上から見下すような視線に変わる。

「…そういう顔するって事は、見た事ないんだね〜」

クスリと小さく笑う村田の態度が気に食わないコンラッドは、平静を装い村田の隣の隣の席に腰を掛ける。そんなコンラッドの態度を少しも気にした風もなく、更に話を続ける村田。

「最近の話しなんだけど、渋谷の誕生日にウサギ耳のコスを買ってあげて付けて貰ったんだ。最初は嫌がってた渋谷も僕のお願いを聞いてくれてね、ウサギ耳付けてくれたんだ。それがもう可愛くてさ〜。顔赤くしてこっち見るもんだから、その格好のまま美味しく頂いたよ」

「……ウサギ耳…ですか…」



コンラッドの声は低い。この場に村田以外の誰かがいたら、コンラッドの恐ろしさに震え上がっていただろう。しかし、村田にとってはそれが面白くて仕方がない。

「あと、これは君なんかには聞かせたくないんだけど…フォンカーベルニコフ郷に、ちょっとした頼み事をしている」

アニシナに関わるとろくな事がないのに、アニシナさえも利用しようとしているのか。だとしたら、ある意味本当に恐ろしい人物だ。

「それは、コスプレみたいに偽物の耳じゃなくて本物の耳が生える薬なんだ。耳だけじゃなくて、尻尾も生えるようにしてもらった。……渋谷は耳が弱いからね、どんな反応するか楽しみだな」

先ほどから黙ったままのコンラッドは、表情は普通だが腑は煮えくり返っているに違いない。その証拠に、平静を装っていても隠しきれてない所がいくつかあるのだ。目を見れば動揺しているように、或いは怒りで鋭くなっているし村田が話してる間、二回程威嚇に使う剣を鳴らせる事をしたのだ。

「渋谷虐めると本当、楽しいんだよー。嫌がっても体は素直だし、最後には自分からおねだりして来るし。この間なんか…」

「ちょっと待ったぁぁああ!!!!」

大きな声と共に扉が壊れるのではないかと思う位、派手な音を立てて渋谷有利が部屋に入って来た。息を急ききって肩で息をして、村田にズカズカと近寄って来る。

「村田っ!何ある事ない事喋ってんだ!」

怒りを向けられた村田はと言うとケロリとして、

「何、君自覚なかったの?昨日の夜だって、僕が欲しいって…」

「わー!わー!わー!コンラッドの前で、そんな事言うなっお前がよくても俺が嫌なんだよ!」

「なんで?ただの恋人自慢じゃないか」

「う…」

「陛下」

黙って二人の話しを聞いていたコンラッドが徐に有利に話し掛けた。呼ばれた有利は不機嫌そうに振り向いた。

「なんだよ。それに、陛下って呼ぶな」

「すみません、ユーリ。猊下が仰っていたのですが、ウサギ耳のコスプレをしたというのは本当ですか?」

「なっ…!」

有利の顔が朱に染まり、後ろに立つ村田を睨みつける。その様子だけで、その話しが事実だという事をコンラッドは理解した。理解すると同時に怒りが再沸騰して来た。

「だって本当の話しじゃないか」

悪びれもしない村田に、有利が掴み掛かる。めったにない光景に、コンラッド自身驚いていた。

「だからっ、そういう事を他の人に話すな!」

怒りからか羞恥心からか顔が真っ赤だ。そんな有利を宥めるように村田がポケットから小瓶を取り出した。

「まあ、落ち着いてよ渋谷。僕が悪かったよ」

言い終わると同時に、有利の口に小瓶の中身を流し込んだ。突然の事に吐き出そうとしたが、口を塞がれた。村田の…唇で。コンラッドの目の前で繰り広げられる、恋人の熱いキスに有利はただ混乱するばかりだ。
唇を離すと同時に有利が胸を押さえ崩れ落ちそうになる。そこを、すかさずコンラッドが支えようとするが村田に邪魔される。

「陛下に何を飲ませたのです…?」

「さっき話してた薬。これから恋人の時間だから君、出てってくれないかな?邪魔なんだよね」

薬という事は、アニシナに頼んだという例の薬か。退室命令を出されても、苦しそうな主を置いて出て行けなかった。そんなコンラッドを見て、村田はしゃがみ込み有利に耳打ちする。

―ねぇ、渋谷。…このままだと君の恥ずかしい姿を、ウェラー郷に見られちゃうよ。
彼に出てけって言ってよ。君の命令じゃないと聞かないようだから。

どんどん熱くなる胸を押さえながら、涙目の有利はコンラッドを見上げる。心配そうな銀の星が散っている瞳とかち合う。

「…俺は大丈夫だから、コンラッドは仕事に戻っていいよ…。てか、戻ってて…っ」

満足げな村田の笑みと唇を噛み締めたコンラッドが、互いに険のある目配せをしてコンラッドは部屋から出て行った。

「…っく…!…あ…!」

コンラッドが出て行って直ぐ、有利が床にうずくまる。それを心配そうに見ていた村田だったが、有利の頭に触れた途端に伸びて来た動物の耳に少なからず驚いた。それは、村田が頼んだ通りの形になりお尻の方にも尻尾が生える。その時になって有利は熱から解放されたように、ぐったりしたように床に横になった。

「…はぁ…村田…、今度は何を…」

「ごめんね渋谷、こんなに苦痛を強いるとは思わなかったんだ」

言葉とは対照的に顔はキラキラと光っている。それは有利の頭にある耳に向けられている。
汗をかき、頬を赤らめ、あまつさえウサギ耳が生えた有利は唾を飲むほど色っぽく村田を釘付けにした。耳に触れると、想像通り甘い吐息をつく。村田はこれ以上自分自身を押さえられなかった。

「ん…っ、村…田…」

求めてるのが分かる。渋谷が自分を求めてる。それが、たまらなく嬉しい。渋谷が求めてるのに答えたくて、僕は渋谷を強く抱き締めた。



END
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