溷ノ章

*陸 霎-ソウ-
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「あぁんもう…どうしてそうなるかなぁ…」

「だ、いじょーぶ!失敗、しないから…」

「…(失敗するしないの問題じゃないんだけどなぁ…)」

グランドピアノを背にサンディが緊張した面持ちで真っ直ぐ前を見ている。
それにつられるように視線を持っていくと50強の人々がこちらを見つめていた。

うん、これは、緊張するな。

「…怖くないの?流石に自分はちょっと緊張してるんだけど」

だけどふと考えてみる。
母さんが何故あんな無茶を言ったのか。
人見知りなサンディが何故その無茶を受け入れたのか。

「…こわいけど、ふるえ止まらないけど、大丈夫」
「――…」

「だって、後ろにジョンがいるもん」

「え?」

「ジョンの綴る音だから、わたしの声は安心して乗せられるの」

「――…」


…心の成長?

…とか、言ってみたりする。
よく分からないけど、多分そう。きっと。

以前のサンディはこんな事絶対しなかったから。

それを分かっていて、母さんは言ったのかもしれない。

…多分。


だけどまだ自分を頼ってくれると言うことは嬉しい事実でもあって、
結局は付き合っちゃうんだよな。

「…はぁ、仕方ないな。いいかサンディ、」

「ん?」

「演奏でオレがリードするから、その旋律を感じて音に乗るんだ。」

「う…うん」

「メトロノームの秒針忘れるなよ。自分のリズムとオレの音、よく聴いて」

「う…ん?」

まぁ、

「サンディ」

「…」

「…思いっきり、歌えよな」


サンディが楽しいなら、それでいいか。


「…うん!」

とびきりの笑顔をオレに向けた後再び前を見る。
自分も楽譜へと集中する。
心の中で拍を刻んで、


「出来るさ」

「うん、二人なら」

「不可能なんてないよ」

「失敗するなんてぜったいないんだから」

「フォローして」

「フォローされて」

「二人で補えるだろ?」

「だってわたしたち」

「オレ達は」

「「双子なんだから」」










陸咄

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