番外編
□共同任務-パートナーミッション-
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「え!?やだよ!」
暖かい昼下がり、広い屋敷にシグンの声が木霊った。
思いっ切りの拒否発言を言われたモルゴはグラサンを光らせる。
「私は仕事が残っていまして…目覚し係の翠華様は法事で来られないそうですし、手が空いているのはシグン様だけなのです」
「だからってさぁ…」
「シグン様、」
「う〜…」
「では、よろしくお願い致します」
未だ納得のいかない顔付きだったシグンを早々に置いて奥に消えて行く黒人。
嵌められた。
そう不覚にも口から漏れた。
そう、正に不覚。
一番やりたくない役割を押しつけられてしまったのだ。
こんなことをするのならば豚の糞掃除でもまだマシと感じられる。
うなだれて眼鏡のフチを押し上げて上を見上げた。
何時もの通りに、映画の宮殿セットみたいに細かい作りと広さに自分が透けて消えるような感覚に陥る。
そして今の心境でそれに加速を掛けた。
「はぁ…無理難題だって」
出来れば行きたくない。
マスターを起こしに行くなんて。
彼は、寝起きがよろしくない。非常に。
起きても目を離せばすぐにベッドに潜り込んでしまっている始末。
脳が起き上がるのに何時間掛かる事か。
嗚呼、誰か行ってはくれないものかと悲願してみたり。
「シグンさん?」
「!」
天使の声だ。
シグンにはそう感じられただろう。
「どうかしまして?そんな顔を真っ青にさせて…」
「丁度いい所に婦長サン!」
「はい?」
意味が解っていない婦長にシグンは2、3歩距離を取って目を輝かす。
「あのさ、その医療器具医務室に運ぶ物でしょ?」
「は、はい」
見れば婦長の細い手には重そうな医療器具がぶら下がっている。
「それ運んでおくからさ、マスター起こしに行ってくんない?」
シグンにとっては名案だった。
この婦長は体格こそ小さいものの、責任感が強く、メリハリある行動でメイド達の信頼は厚い。
きっと引き受けて起こしに行ってくれるだろう。
期待に胸躍らせながら返答を待っていると婦長からはシグンが予想もしていなかった反応が帰って来た。
「わ、わた、わわわた、わたくしがっ…ま、ままままますたーさまを起こしに行けるわけけけ」
「…え?」
「す、すすすすみません!!」
顔を真っ赤にして、
叫ぶ様にそう言うと婦長は一目散に走って消えて行く。
「…え?な、なに?」
再び一人残されたシグンはただ茫然と消えて行った方を見つめていたが状況が振出に戻った事についてまた落ち込む。
「みんなそんなマスター起こしに行くのが嫌なワケ?」
独り言に終わる言葉を溶かして、どうやら自分が行くしか無い様でシグンは主人の部屋へ続く階段を上り始めた。
共同任務