番外編

□While Day
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ダンッ

と、荒々しく地面を駆ける足が一歩、また一歩と繰り返し前に出される。

ひたすら暗闇の中前に進む足音はふたつ。

入り組まれた停船基地を走っていた。



その駆け足は地面から階段へと変わった。


「5分36秒のタイムロスだ誰かのせいでな!」


先頭を走る者から皮肉めいた罵声が飛ぶ。


「はぁ!?オレが悪いっつーの!?言っとくけど予定場所を勝手に変更した挙句迷ったのが悪いんじゃん!」

そして負けじと後ろから付いて行っている者からも言い返し。

「迷ったのはお前の方だろうが!!」

「北北西で落合うとか言って南南東にいたのは誰だよ!!」

「お前がいなかったからわざわざ捜しに行ったんだ!!」

「その10秒後には来ましたよ!ガキじゃ無いんだからそれくらい配慮してよ!」

「だから来るなと言ったんだ!」

「あ、またそうやって自分だけカッコいい所見せたいからって!!」

「何故そうなるお前のソレは屁理屈だ!」

「うるっさいなぁ!屁でけっこーです!!」

「何だと!?」

「なにさ!!」




階段を上り切り一気に屋上に飛び出せばさらに加速した。

そのまま走れば下は海だが、速度は落ちない。
落とさない。


「お前は何時も何時も何時も…っ」

「6分ジャスト。そろそろヤバいから」

「分かっているっ」

「じゃぁオレが落ちないようにしてよ!?」

「…跳ぶぞッ」


床の終りが見えて来る。


自由落下で行けばこのまま暗い紫色の海にたたき付けられてしまう。

まだ何か言いたげな表現を噛み殺し、小さく舌打ちをするとそうはいかないと言わんばかりに屋上の縁を境目に蹴り上げた。

幅跳びと同じ要領で身体が宙に受く。


月も、星も、街灯も何も無い暗闇。

その中で身体はゆっくりと下に落ちて行き、


ズザザッ



見事6M隣の建設物に文字通り跳び移った。


片膝をついて速度を削った為摩擦力によって膝小僧が熱を帯びる。

それに0.5秒遅れてどしゃっと鈍い音をたてながら相方が転がり落ちて来た。

「ふぎゃっ」等と情けない声が無様にも漏れる。


「い、痛い…お前の運動神経と同列視しないで…」

「伏せろ」

身体を起こしている途中に背中を押さえ付けられ再び地面に縫い付けられた。

「オレ別に地面と仲良くなりたい訳じゃ…」

「静かにしろ」

「…」


言われた通り、屁理屈ばかり出る口を噤む。

暗黒の闇の中、聞こえるのは海が波打つ小波と、強く吹いている潮風が体を撫ぜる音、そして…


「……足音…?」

「下だ…9時と3時の方向から二人ずつ…挟まれたな」

「挟……んな状況悪いコト人事みたいに言わないでよ」


身を低くして肉食動物がまるで獲物でも見ているかの様に息を潜める。

相手にはまだ気付かれていない。

ただ持ち構えた銃を握ってその弾を放つ瞬間を狙っている。

「四人…」

「四人だね」

「…」

「撃つの?」

「馬鹿言えもっと面倒臭くなる。」

「じゃ、どうすんの」

「今までで6分25秒のオーバー…最低記録だ」

「…」

「もたつかなければこんな奴等相手しなくて良かったのにな」

「…分かったゴメン。謝るよオレのせいですスミマセンデシタ」

「誠意が篭って無いな」

はぁ、
とクルリと自分の黒髪を指に絡めて溜息。

「…マスター?」

そんな余裕じみた、何よりいけ好かない態度に少なからずの苛つきを感じるのは必然と言うか、これが流れと言うか。

ひくついた笑みを眼鏡を押し上げて作るものの、相手に己の心情がまるで伝わって無いのかツーンと顔を背けられる。

「俺はこうコソコソして逃げるの、本当は好まない」

「え、じゃぁなに?オレが囮になれと?」

「話が早いな」

















…え?











な…




なに白々とっ




「ふ…っふざけ──!!」

「いたぞ!!」


感情を隠し切れずに「ふざけんな」と言葉を吐こうとした時、思わず体を上げてしまう物だから見つかるのは仕方無い事で、

その言葉と向こうが発砲して来る時差は微々たる物だった。

突然ぐん、と身体に圧迫感。

反動が大きくて衝撃に吹っ飛ばされながら遅れて腕と足が付いて来た。

そして、弾丸が頬を掠めた痛みを感じるまで0.3秒。

付け足せば先程の圧迫感は黒髪の青年が右腕に抱えて急に走り出したからと理解したのに0.8秒掛かった。

「うわわわわわわっ」

「…」


敵が発砲してくる。

抱えている状態で走りながらギリギリの所で躱して行く。

躱された弾丸は風を切って貯水タンクやボイラーに当たった。

「し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!」

「黙って無いと舌噛むぞ!!」

「クソッちょこまかと……撃て!B班応援を」

「…応援か、拙いな」

「最初からマズいです!!」

「…」


むぅと少し考える素振りを見せ、小さく息を漏らすと「仕方無いか」と呟かれた。

一体何が仕方無いのか、

潔く撃たれ…


いやいや彼にとってソレは無い。

「シグン」

「は、はひ」

「…お前、泳げるな」

「へぁ?…なんで」

「どちらだ」



どちら、とそんなド真面目に聞かれても…


「泳げる……けど、それと今の状況に何の関係が!?


最後の言葉も言い終らない内に押し出された。

宙に浮いた身体は問答無用に落ちて行く。


…何処に?



下に意識を向けている暇無くて、

ふわりとした浮遊感を感じている間に突き飛ばした本人も後を追う様に背面跳びで弧を描きながら跳んだ。

「…ぁ、」

ゆっくり、ゆっくり下がって行く視界の中で初めて彼が銀色の回転式拳銃(リボルバー)をジャケットから取り出したのを見た。





ガウン、


と彼の愛銃が吠え弾丸が一閃する。


それがきっちりと4回。




見えなかったけれど急所に当たったのだろう。

それを最後に相手からの叫びも銃声もしなくなった。


あぁ、こんなアクロバティックな技もできるなんて最早アニメのヒーローより凄いかもしれない。

少なくとも一般人が出来る事じゃないな。


なんて運動神経と動体視力の良さで脱帽しているのも束の間、

建物がドンドン高くなって行くものだから下を見ると、待構えていたものは──





「──うわ!?」






















       バシァァァアン!!!











While Day
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