番外編

□共同任務-パートナーミッション-
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「…」


無言で部屋のドアノブを回した。

これがどれだけ重く感じられた事か。

「…マスター?」


鍵は開いている。
そのまま足を進めるとタイルから絨毯へと床が変わった。

カーテンが締め切られた薄暗い部屋は自然と息を飲ませる。

無音の中で自分の足音しか聞こえない空間に少なからずの緊張を覚えていた。


この部屋に主がいないのを確かめてから寝室へと続くドアに向かった。

開くとキィ…と微かに音が鳴る。
同様に薄暗い部屋の真ん中、ベッドにもっこり膨らんでる物質が、

「…マスター?」


ひょいと近付いて覗いて見るものの、布団が頭まで被っていて顔は見えず黒髪がはみ出している程度。

それでも布団の上下と微かに聞こえる寝息で取り敢えず生きているのだと分かる。

起きなよと呼び掛け少し揺らすが起きる気配が無い。


「…はぁ」



やっぱりダメかとベッドに座る。
羽毛布団が柔らかくシグンを受け入れた。


「…」



シャワールームから湯気が出ている。
そして改めて見たら髪が濡れていた。

…一回は起きたらしい。



「じゃぁそのまま起きてろよ…」



べし。と頭を叩く。
が、やはり起きる気配は無い。

「…」

諦めにも似た視線を向けているとシグンのポケットから振動が伝わって来た。

どうやらマナーにしていた携帯の様だ。

「…うげ」

画面の表示を見てシグンの表情が険しくなった。
明らかに出たくない人物の反応だ。

しかし無視も出来ない為、嫌々通話ボタンを押した。


「ハローボス」

『いやーシグンくん元気そうで何よりー』

「用件何ですか」

『いやぁぁん!ちょっとくらい戯れに付き合ってくれても良いじゃな…』
「用件何ですか」

『ひ、酷い「用件何ですか」


淡々と同じ言葉を繰り返すシグンに傷付いたのかボスは涙声でボソボソと何やら愚痴を言い始める。

『なんだよー…ちょっとくらいおやぢの戯れに付き合ってくれてもいーじゃん。独り身で寂しいってコト分かってくれないかなー…大体年寄りは大切にって教わらなかったの?』

「そうですね。じゃぁさっさと嫁でも何でも貰って下さい。年寄りなら年寄りらしく腰丸めて幸せにヨボヨボ暮らしてください」

『!!!!』

「…(流石に黙るか?)」

『シグンくん』

「はい」

『…給料半分カット』

「えぇ!?やですよ!!」



待て待て。
記録屋は給料制か。



『あんまりボクを苛めるからだよ〜べー』

「だっ、そんなッ、理不尽だ!!」

「痛ッ」

「ん?」




怒りの余りにベッドに立ったシグンの足の下には生暖かい物が踏まれていた。

そしてサッとシグンの顔色が悪くなる。


「…テメェ、誰の腹の上に乗ってんだ…」


そしてゆるゆると碧い瞳が開かれ睨む。

そして腹の上の左足をガッと掴まれた。


「ち、違うよ!オレはお前起こしに行ってこいって言われて」

「問答無用!!」

「やぁぁぁあああ!!」


































『…もしもーし?』







受話器の向うでゴインと鈍い音が聞こえたそうな。
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