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□弾劇一周年記念
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「チェックメイト」


真っ白な空間のなかで、勝負の決着をつける合図が
そっと 響いた。
足を組み直し、シャドウは目の前でチェス盤をただひたすら眺めるメフィレスをちらと見やる。

背の高い机に背の高い椅子。
その上に置かれたチェス盤。
壁も、床も机も椅子も扉も
自分とメフィレスと、チェス盤以外はすべて真っ白な
そんな部屋だった。

シャドウはそれを不思議に感じていた。
目の前の闇は、その名の通り“闇”なのだから。
その忌々しい宿命を背負い生まれ落ちた彼にはまるで似合わない場所。
しかしこの白い部屋を生み出し、シャドウを招いたのはメフィレス自身なのである。

かつてイブリースと共に朽ちたメフィレスは、何の因果かシャドウの精神に意識が紛れ込んでいた。
だからといってシャドウの強い精神を乗っ取る事が出来る訳でもなく。
長い葛藤と交渉の末、精神の一部を借りて、メフィレスは自分が創り上げた精神世界のこの部屋で比較的快適な暮らしを送っていた。
唯一の話相手であるシャドウは、例えば睡眠をとっているときによくこの部屋に招かれる。
だからこその、違和感。
普段のメフィレスの自室は白い空間などではなく、薄暗い、彼の名をよく表したようなまがまがしい空間が殆どだったのだ。

そんなメフィレスの部屋が、どうして突然このような目に痛い、眩しい部屋へと変貌したのか?
考えれば考えるほど訳がわからなくなる。


「何度やっても君には勝てないね」


悔しさの欠片もないような口振りで呟いたメフィレスが、チェスの駒を並べ直していた。
それを眺めながらシャドウは鼻を鳴らす。


「頭を使えば簡単なゲームだ」

「あぁ…まぁそういう事なんだろうけれど」

「寧ろこういう物はお前も得意だと思っていたが?」

「……さぁ、どうなんだろう?」


乾いた笑いが、空間と鼓膜を震わせる


「ボクは生まれてすぐに君の手によって闇の帳のなかに封印された。
こういう娯楽を味わうよりも先に…ね」


年季の差だよ
君を年寄り扱いしているつもりはないけれどね。

白のクイーンを手の上で転がしながら、メフィレスは話を続ける。


「あの時は君や人間どもを恨んだよ。わけも解らないうちに生み出されて、長い間閉じ込められて。」

「……」

「全て、壊してやろうと胸に誓っていた…怒りと絶望しか育たなかったのさ。帳のなかでは」


そう零すメフィレスの瞳は何処までも虚ろで、綺麗なエメラルド色は深く闇のように見える。
こいつは、
孤独だったんだろう。
それこそこんな目をするくらいに永いながい間何処までも。

何も知らず

清々しい青い空も
優しい夜の色も
暖かい夕焼けも

それと共に走るあの風も。
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