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□U短文集
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俺は信じてた。

いつか誰もが知っているような有名人になるんだと
綺麗な素晴らしい世界で生きているんだろうと。
夢だったわけではないけれど
夢見ていたんだ。





「…この間さぁ、

 こんくらいの小さいガキに
 “あんたみたいなカッコイイ警官になるんだぁー!”って言われたんだ」


当時の子供の背丈を思い出しながら、運転席の相棒に話し掛ける。
相棒は前を向いたまま煙草を口にしつつ


「‥ふーん」


と、
一言だけ言ってのけた。


「すっげぇ目がきらきらしてた。
 拳握り締めて熱心に俺なんかに将来の夢語ってた。
 アホだよなぁそんなキレイゴトばっかな世界じゃあないのに」


俺はあのガキみてぇな頃に戻りてぇよ。
あの頃なら世の中の汚いこと知らないきれーなままで居られたんだ。
うらやましいったらありゃしねぇ


「…お前さぁ、将来の夢ってなんだった?」
「俺?」


突然の問い掛けに相棒は少し戸惑い、
返事を返そうと少し迷ったふりをしてから口を開く。


「…ミュージシャンになりたかった、かな」


余りにも似合わなさすぎて噴き出した。


「ぷッ‥まじで?」
「嘘に決まってるでしょ。
 ホントはてきとーに稼いでてきとーに年老いて、
 てきとーに死ねたらそれでよかったんだ。」


相棒もつられてカラカラと笑う。


「それはとどのつまり、俺と同じくなんとなくでココに居るワケだ?」
「そういうことになるな。」
「ははっ、あのガキが知ったらさぞゲンメツするだろーよ」


こんないい加減な奴らが国の平和守ってんだ
笑えるだろ?
(少なくとも俺なら絶対笑うね)


「‥けど」
「ん?」
「今はちゃんと目標持って仕事してるかな」
「…へぇ」
「理由は知りたくない?」


タイミングを読んで差し出した灰皿に煙草を押しつけて相棒はこっちを向いた。
おいおいオニーサン口元がニヤついてんぞ、いやらしい。


「別に。」
「何だよ即答かよ」
「お前が言いたいだけだろうが」


第一そんなもん
言わなくてもわかるだろ?
同じなんだから。


「言葉にした方が多少なりとも目標達成に力が入らない?」
「さぁ?夢なんざ口にしたことねぇよ」
「じゃあ俺がしてあげる」


言いながら、口にキス。
(なんてベタなやつだ)


「ずっとボリスの相棒で居られますよーに。」


嗚呼なんて不純なおまわりさん。


「…あのガキもかわいそーに。」


そんな汚ささえ今は心地好いなんて






【何れ識る刻が来よう】

(あの子供は未だしらない。)





















2008.12.23.
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