小説

□Je te veux 2
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淳が待ち合わせ場所に着いたのは、夕刻だった。
手入れの行き届いた絨緞は落ち着いた色で、幾つか置かれているソファと同系色で纏められている。
豪奢過ぎず、適度にくつろげる空間。

クリスマス直前と云う事もあり、それなりに演出されてはいたが、決して派手すぎる事も無く、置かれたオーナメントもシンプルで品の良いものだけであった。

メインロビーであるこは、ホテルや同じ建物内にある店の利用者ばかりではなく、待ち合わせにも利用される。

淳の待ち合わせの相手は、一人掛けのソファの一つを占領して眠り込んでいた。

しかも、制服のまま。

よくまあ、こんな処で、制服のまま眠れるものだ。
慥かにここは、居心地の良い場所ではあるけれど。

昔から。
達哉はいつでもどこでも、すぐ眠る。
別に睡眠時間が足りないわけでもないらしいのに、
何時の間にか、気がついたら寝息を立てていたりする。

毅い光を放つ、鳶色の瞳が閉ざされている所為か。
起きている時よりも、幾分幼く見える、綺麗に整った顔。
いつものように第一ボタンを外した白いカッターシャツと、
それに合わせて緩めに結んだネクタイが、寝ている時に少し引っ張られていた為に、首の線が露わになっている。

思いの他細い首。
ジョーカーだった頃、この首に手を掛けて、締め上げた事があった。


本当に。
よくもまあ、こんな風に。
 
靭やかな肢体を投げ出して。
滑らかな首筋を、惜しげもなく曝して。
長い睫毛を伏せたまま。
そこだけほんのり色づいた唇なんて、半開きで。

こんな、場所で。
居心地の良い場所でくつろいでる猫みたいに。

悪戯して、って、云ってるようなもんじゃないか。

辺りには、そんなに多くないとは云うものの、何人かの人がいる。

半端な時間帯の所為か、カップルよりも、仕事の打ち合わせらしきビジネスマンの背広姿が目立つ。

斜め後ろには、レセプションカウンター。

もし、ここで何かしたら、どうなるかな。

「達哉」
頭のなかだけでシミュレートして、ストレス解消した淳は、いつもの穏やかな微笑で、達哉に声をかけた。

やっぱり、猫の首に首輪をつけるのが先でしょう。
後は、ほんの少し位はお仕置きしてもいいよね。

淳は、近くの喫茶店に、達哉を誘った。
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