小説

□何でもないイチニチ。side“T”
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長閑な昼下がり。
窓から差し込む日の光がいかにも気持ちよさげで、達哉はその窓を開け放った。

途端に、勢いよく吹き込んでくる風に、書類の一部が宙を舞う。

「達哉、ドアと窓を閉めなさい」
不機嫌そうな兄の声に、達哉は取りあえずドアだけを閉める事にした。
通り道を無くした風は吹き込むのをやめ、窓の辺りでさわさわと揺れているだけになった。
「ドアと窓を閉めなさいと言った筈だが、聞こえなかったのか」
「いいだろ、もう風も入らないし」
「埃が入る」
「いいだろ、花粉症でもないんだし」
無言で、キイを叩く音だけが部屋に響いた。

兄が不機嫌になるのも、判らない訳ではない。
こんな天気の良い日に、しかも折角の2人きりの休みだというのに、仕事を片付けないといけないんだから。

だけど、と達哉は思う。
こんな天気の良い日に、しかも折角の2人きりの休みだというのに、仕事をしている兄も悪い。

「なあ、いつ終わるんだ?」
後ろから張り付くようにして覗き込む。
「お前が邪魔さえしなければ、もうすぐだ」
克哉は弟を引き剥がそうともせずに、ただ手元のノートパソコンを少しずらして、キイを打ちやすくする。
軽くいなされたようで何となく気に入らない達哉は、今度は机と椅子の間、克哉の膝の上に頭を凭せ掛ける。
克哉の膝に軽く頭をぶつけていたが、そのまま仰向けになって目を閉じた。
机と椅子の距離はそれほど近くも無かったので、思ったより悪くない。
この部屋の空気が、達哉は好きだった。

自分の部屋とは明らかに違う、一部の隙も無く整頓された部屋。
それなのに、ここにいると何だか落ち着くのはどうしてなのか。
この部屋に満ちている、「におい」とか。
それはこのひとがいない間でも、微かに残る、このひと自身の「存在」の「におい」。

そして。
凭れ掛かっている膝の感触。
「達哉」
兄の非難する声が落ちてきたが、達哉は
「兄さん、俺今日ここで寝てもいい?」
居心地いいし。
それだけ言って、兄の返事も待たずに、さっさと寝息を立て始めた。

達哉の微かな寝息に、かれの物では無い溜息がひとつ。

やがて室内には、再び小さなタイピング音が流れ始めた。

風が木の葉を揺らす微かな音が、開け放たれた窓から時々室内に流れ込み、静かに二重奏を奏ででいた。

                《side“T” 終》







仕事、持ち帰れるもんなのか?
つか、無理じゃね?
ま、まあそういうツッコミは無しの方向で(笑)
何ならパラレルで。克哉刑事なんて誰も言ってないし!ね!(苦しい)

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