小説

□Je te veux
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「達哉」
ホテルのロビーのソファの座り心地がよくて、ついうっかり居眠りしていた達哉の耳に、待ち人の声が飛び込んできた。
「ごめんね、遅くなって」
目を上げると、淳は私服姿だった。
それで遅くなったのか、と達哉は納得する。
自分は面倒だからと、学校から直接ここまで来たので制服のままだった。
「学校から直接来たんだね」
「ああ」
答えてから、改めて気付いた。
高級ホテルのロビーに、制服姿の高校生。もしかして、かなり浮いてるかも知れない。
尤も、もし逆に自分が私服で淳が制服のままだったとしても、達哉は何の疑問も抱かないだろう。
「ちょっと、場所変えようか」
淳がそんな達哉の考えを読んだかのように苦笑して、達哉の手を取った。



「ごめんね、急に呼び出したりして」
淳について入った喫茶店は、落ち着いた雰囲気で、学生の姿も余り見当たらない。
「別にいいけど、用って何」
「これ」
淳が取り出したケースの中身に、達哉は目を瞠る。
銀色に輝く、シンプルなデザインのネックレス。
余分な装飾の一切無いそれは、女性がつけるにはあっさりしすぎてはいたが、よく見ると凝っていて、モノに疎い達哉にでも高価な品物だと判る。
「一足早いけど、クリスマスプレゼント。達哉に似合うと思ってさ」
「え」
「何がいいかよく判らなくて、色々探してみたんだけど、それが結局一番いいなって思ったんだ」
受け取れない、こんな…高価そうな。
云おうとした言葉を、遮るように。
「気に入らないかも知れないけど…どうしても、君にあげたくてさ」
少し淋しそうに、淳が微笑む。
「誰かの為にプレゼント選ぶのが、こんなに楽しいなんて思わなかったよ」

今度は、少しだけ楽しそうに。
自分は、アクセサリーなんて身につけないし、興味も無いけど。

「ちょっとだけ、クリスマスだ誕生日だって騒ぐ女の子の気持が、判った様な気がするな」

そう云って、今度こそ明るく笑う淳が、なんだか余りにも…哀しくて。
「ありがと、淳。大事にする」

そう思っている事を悟られないように、何とか笑顔を作って、渡されたそれを受け取る。
「良かった。…そうだ、つけてあげる」
「え?ここで、か?」
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