小説

□Je te veux
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幾ら何でも、それはかなり恥ずかしい気がする。
男が他人に、しかもアクセサリーをつけて貰う、なんて。
しかも、幾ら人が少ないとはいえ、他人が見たらどう思うか。

よく考えなくても、かなり―みっともない。

「だって、ホントに似合うと思うからさ。つけてるトコ見たいんだよ」
珍しく、子供のようにはしゃぐ淳に勝てなくて。
「判った。じゃ自分で…」
「駄目だよ。留め金結構ややこしいし、髪の毛挟んだりしたら痛いでしょ」
達哉のせめてもの抵抗は、あっさり一蹴された。



「ちょっとごめんね―」
淳が達哉の席の後ろに立った。
しゃら、鎖が軽い音を立てる。
ひんやりした指先が、達哉の柔らかくて幾分癖のある後ろ髪を掻き分けた。
項に直接当たる指の感触に、首を竦めたくなるのを何とか堪える。
「…っ」
「緊張しなくていいよ」
笑いを含んだ淳の低い声が、耳を擽って、達哉はますます身を振りほどきたくなる。
しかしそんな事をすれば、淳が誤解して傷つくだろうし。
何より、周りの注目を集めてしまう。
別に疚しい事をしてる訳じゃ無いけど、この状況自体が結構恥ずかしい気がするし。
「まだ、動かないでね」
首に当たる、冷たい鎖の感触は、なかなか肌の温度に馴染まない。
それが、微かに擦れる。
「この留め金が、かかんなくて…」
淳の独り言めいた小さな囁きが、
耳に呼吸がかかるくらいに近くで聞こえてきて、鳥肌が立ってしまった。
「淳…っ」
その感覚を誤魔化す為に、怒ったような声で呼ぶ。

「ごめんね。でも、もう少しだから」
また耳元で、囁くように。

何でこんな事で背筋が粟立つのか。
どっか、おかしいんじゃないのか。

昔から、首や耳の辺りに何か触れるのが苦手だった。
だから、髪を切るのも自分でやっていた。
他人に―髪を弄られるのが苦手で。
手先も器用だったから、それで困った事など無かったし。
「もう…いいから。自分でやる、からっ…」
「動いちゃ駄目だって、云ってるのに」
淳の指が。
また、首筋に触れる。
耳に吹き込まれる様に囁かれて、背が跳ね上がりそうになるのを、何とかやり過ごす。
こんな、所で。
しかも、ただ装身具をつけてくれようとしてるだけの、友人の手と声に。
何でこんなに―反応してしまうのか。
「もう少しだから、我慢してね」
何を、我慢しろと言うのか。
この状況に対してなのか、それとも。
いちいち鳥肌が立ってしまう、この感触にか。
「…っ」
それだけの事で、どうして涙が滲みそうになるのか。
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