小説

□Je te veux
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「はい、終わったよ」
淳の声が離れて、目の前の席に戻ってくる。
達哉は思わず、そっと息を吐いた。
「思った通りだ。よく似合うよ」
淳の手放しの賞賛に、目が上げられない。
「そんな、照れなくてもいいのに。ホントによく似合うよ」
首筋と顔に点った熱を、淳は誤解したらしくて、達哉はますます目線を合わせ辛くなった。
 「その…いいのか本当に?こんなの貰っても…」
下を向いたまま、何とか誤魔化してみる。
「勿論だよ。君が受け取ってくれて、本当に良かった」
淳の嬉しそうな声に、ますます顔を上げられなくて。
「大事にするよ、ありがとう」
呟くような声は、語尾が口の中に消えるような。
「今度のクリスマスは、バイトなんでしょ?」
唐突な話題の転換に、一瞬達哉はついてゆけず、思わず逸らしていた目を上げた。
「ごめん。君と一緒に、クリスマスとか、何かやりたかったんだ。
その日はバイトだって知ってたから、こうやって呼び出したのにね」
「遅くなってからでいいんなら、会えるけど」
淳の淋しげな表情と声に、思わず達哉はそう口走っていた。
「ありがとう。でも、無理しなくていいからね」
「無理…じゃない」
達哉は必死に、言葉を重ねる。
誰もいない寂しさは、よく知っているから。
もう、親友に寂しい思いなんか、させたくないから。
「ありがとう―。達哉は、優しいね」
優しい訳じゃないけど、ただ。
自分も、寂しかったから。

「じゃあ、プレゼント、期待してもいいかな…?」
淳が、謎めいた微笑を浮かべる。
「あ…そうだな、何がいい?」
「こういうのは、普通自分で考えるんだよ」
そっか、と呟いた達哉に、淳た謎めいた微笑を湛えたまま、
「それとも、リクエストしたら、君は僕の欲しいものをくれるのかな」
その微笑が、何だか達哉は好きになれなくて。
「そんなの、云われるまで判んないだろ」
ややぶっきらぼうに答える。
「云っても、判らないかもね」
何だよそれは、そう云って少しむくれる達哉を、淳は黙って微笑み乍ら見詰めた。



僕の欲しいものは、ただ一つだけ。
君が全てを僕に明け渡して、
僕は君を、僕のモノで埋め尽くそう。

―だって、僕は君、君は僕なんだもの。―

そう、云ったよね?

「用は、それだけだよ。もうすぐ、バイトの時間なんでしょ?」
「ああ、悪いな」
慌しく立ち去る達哉を、視界に収めて、
淳は、先程まで達哉に見せていた微笑と、全く違う表情で、薄く嗤った。


―Fin―



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