インベンション。

□蝶よ花よ
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対決が始まった頃は『完膚なきまで負かす!』なんて意気込んでいたが。
今、俺は不機嫌だった。
これまで、水面に釣糸を垂らして、魚が餌に食いつくのをひたすら待った。
…だが、待てども待てども糸は揺れない。

怒りのせいですっかり忘れていたが、今の季節は冬だ。
この時期になると魚は深い水底に潜る。だからどんなに良い仕掛けを使っていても、浅瀬までしか届かないような短い釣竿では、魚など釣れる訳がない。
ようやくそれを思い出すと同時に、渡された釣竿をへし折る勢いで地面に叩きつける。

「だぁーッ!!釣れる訳がねぇー!!!」

アカネに一杯食わされた。

アイツは端から協力する気など無く、俺を諦めさせるつもりだったに違いない。
侍男のことを『良いヤツ』庇う発言してたしな。
…しかし『あの時、アカネに任せるんじゃなかった…』と今さら後悔しても遅い。充分に遅いと解っているが、後悔せずにはいられねぇ。

胸中では悔いと怒りが綯い交ぜになり、釣りを再開する気にもなれず。
制限時間の一時間はあっという間に過ぎていた。

そして結局、俺は一匹も釣れぬままでアカネとリプレが待つ集合場所へ戻る。
そこには既に侍男がいて、片手にバケツを抱えている。
…コイツも俺と同じように坊主食らっとけば少しは望みも持てたのに。

「あっれぇ〜?ガゼル、魚はどうしたのよ〜?シンゲンは収獲有りだけど?」

手ぶらの俺を見るなり、ニヤニヤと腹立たしい笑いを浮かべてアカネが尋ねてきた。

「見れば分かるだろーがッ!坊主だよ、ぼ・う・ず!!」

お前のせいでな!…の一言は言わないでおいた。言い訳みたいで癪だ。

遊びみたいな決闘とはいえ、俺が侍男に負けたことは曲げようも無い事実だ。
与えられた道具も、状況も不利だったけど。
それを理由にするなんざ、みっともねぇ。

「それじゃ、この対決の勝者はシンゲンってことで…」


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