インベンション。
□蝶よ花よ
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俺も男だ。
潔くアルバと侍男との交際を認めてやる――
「――って、オイコラ、ちょっと待て!」
…訳にいかなくなった。
俺は見た。侍男の持つバケツの中身を。
バケツの中には確かに魚が入っていた。
ただし、俺が想像していた食い応えの有りそうな魚ではなく。小指の長さしかない小魚が数匹だけ。
「……この大きさで…俺は…、俺は……」
「な、何?どうしたのよ、ガゼ――」
「認めねぇーーーーッ!!!」
思いっきり釣竿を地面に叩きつけて力一杯に叫ぶ。
その衝撃に耐え切れなかったのか、遂に釣竿は見事に真ん中から折れた。まるで俺の堪忍袋の緒がブチ切れた様な音を響かせて。
…俺だって、侍男の釣った魚が、腹が膨れそうな大きさの魚だったら黙っていた。
負けを認めて、潔く諦めた。
けれどこんな魚――川で網を振り回していれば、簡単に獲れそうな小魚に負けたかと思うと。
アルバの将来が決まってしまった、となると。
――色々と、我慢の限界だ。
「こんな決闘は無しだッ!」
「え、ええええ?!ちょっ…ガゼル!話が違――」
「るっせぇ!俺は納得いかねーんだよ!だから仕切りなおしだ!!」
アカネが腰に携えていた苦無とか言う武器と刀を素早く奪い、そして刀を侍男に投げた。
俺の得物は本来ならば短剣だが、今は宿に置いてきたので使えない。
しかし、苦無は僅かに質量があるだけで大きさも、刃の長さも、短剣とそうそう変わりはない。
柄が少し頼りないが、しっかり握っとけば、手から弾き飛ばされることもないだろう。