インベンション。

□蝶よ花よ
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「――ッ!」

条件反射ってものなのか、侍男は鞘で己に向けられた刃先を弾き飛ばした。
ガキンッと鈍い音が辺りに響き、俺は反動を受けて数歩、後ろへ下がる。すぐさま態勢を整えて、再度、侍男の真正面に踏み込む。

しかし、次は横へ回り込む前に、刃が目の前へ迫ってくる。それを慌てて身を後ろへ引き、間一髪の処で避けた。

「やっと闘う気になったか」

「…この様な勝負は不本意ですけれど、仕方ありません」

長い刃が日の光を受けて、ゆらりと煌めく。
侍男から、刃から感じる。静かだが、確実な圧力と闘志。
さっきまでは何処か腑抜けた、人好きのする顔をしていたというのに。今は、自分も知っている“サムライ”の顔そのものだ。

鞘を抜いただけでここまで人が変わる。これは侮れねぇな。

――相手は本気になった。
不用意に近づけば、居合い斬りを打ち込まれる。
あの技を避けることは簡単じゃない。喰らったら最期、俺の敗北は確実だ。
…だったら、策は一つっきり。


(ヤツよりも先に、技を打ち込む…!)


苦無で成功するかは謎だ。けど、やるしかねぇ。
手の内にある得物を強く握りこむ。


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