インベンション。
□いつもの顔で嗤うだけ
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「ねぇ、シンゲンは“馬鹿な大人”なの?」
幼い子供の疑問というのは、時折、どんな暴言よりも残酷なものだ。
純粋、故に無邪気。
無知、故に罪深い。
尚且つ起こす行動に悪気など、これっぽっちも持たぬ生き物だから質が悪い。
聞いてしまった他人の噂話の内容を、話題の対象であった人物に誠かどうかを尋ねられるのだから本当にどうしようもない。
だがその無垢さは、好ましいと思える。
「あははっ、馬鹿ですか」
「うん。パパとリビエルが言ってたの。
シンゲンは馬鹿だって。自分の中で勝手に完結して、ちっとも相手のこと考えてないって」
「ふむ…」
「それって本当なの?」
大きな瞳が見つめてくる。
それは薄く色がかかっているだけの、透明な一点の淀みもない綺麗なガラス玉みたいだ。
シンゲンはフッと微笑むとその場に屈み、ミルリーフと視線を合わせた。
そして彼は絹糸の様な幼子の髪を撫でながら答える。
「……そう、ですね。私は馬鹿ですよ」
その時。
視線はミルリーフに向かっていたが、シンゲンの意識は別のところにあった。