インベンション。
□温度のない空間
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それに知り合いの話によると、シャオメイの所にも頻繁に出入りしているらしい。
…となると、考えられる話は一つ。
――彼の探し人が、見つかった。
理由はそれくらいだ。
「朝飯、用意するから。食堂に先行ってくれ」
すまんな、と返事をして少し疲れた顔で笑ったセイロンに、ライは複雑な想いで笑い返した。
――セイロンが正式な居候となって、早いもので数ヶ月が経っている。
御使いとして滞在していた頃の少し緊張が混じる日々とは違い、只の居候であるセイロンと過ごす日々はゆるやかで楽しいものだった。
だからなのかすっかり忘れていた。
セイロンが何故、ここに残っていたのか。
彼には探している人がいる。
ここには、その人の手がかりを見つける為に留まっていただけだ。
いずれはこの宿を去る。
それは居候となった初日から解りきっていたことだ。
セイロンが居候の期間として提示した条件でもあり、自分もそれを解っていて彼を迎えたのだから。
セイロンがこの宿にいて、隣にいること。
それに馴染みすぎてすっかり忘れていたのだ。
彼が此処から離れてゆく事を。
台所に立てば、彼専用となった食器が並んでいる。
洗濯物には紅い着物が混じり、客室の前を歩けば時折、シルターンの香水だという“御香”の匂いがする。
そこ彼処にセイロンの存在を主張する物が、宿の中には溢れていて、彼が居る事が当たり前のようになっていた。
でもその考えを覆されて、大事なことを思い出せて良かった筈なのに。
どうしてだか、今は複雑だ。
胸に寒さが一層、ジンとくる。
指先の冷たさなど比ではないほどの寒さが。
それから数日経った日。
セイロンは朝からどこかに出かけて行った。