インベンション。

□入れ換わっちゃいました(前編)
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※この話は両者とも仲間関係止まりの設定です。

***





町の片隅にひっそりと佇む『忘れじの面影亭』は、食事が評判の宿屋である。
宿屋だが宿泊客は少ない。…というよりいない。
確かに部屋は半分以上使用されているのだが、そこを使うのは客ではなく居候達だった。

その一人ひとりが個性的なので、宿屋内は些細なことでも賑やかになるのだが――



「ま、待ってください…!!」


突然、宿の中に響いた誰かを引きとめる声。
慌しくドアが開閉される音。
荒々しい複数の靴音。

客足が途絶えて手持ち無沙汰になった昼下がりに似つかわしくない騒音が、宿の中を響きわたる。
これにはテラスで休憩中のブロンクス姉弟とその使用人は何事かと食堂に戻ってきたし、台所でジャムを作っていた店主であるライのところにも聴こえてきたので、片手にお玉を持ったまま彼も飛び出してきた。

賑やかの範疇を通り越して、揉め事の域に入るだろう騒ぎ。
いったい誰が…と、訝しげにライが階段の中腹から二階を見上げた――と、ほぼ同時だった。

「――…駄目だ…ッ!アルバくんッ!!」

シンゲンの声が鋭く上から降り注ぎ、名前を呼ばれた少年がライの方に迫ってきた――いや、背中を向けてライの方へ落ちてきた。

予想しなかった衝撃の上に、それほど体重が変わらない為か。
真正面からアルバを受けたライはその場で支え留まりきれず、後ろへバランスを崩した。

その後はもう、階下へと二人一緒に真っ逆さま。
受身を取ることも、瞬きする間もなく、次の瞬間には階段を転がりながら食堂の床に打ち付けられ、体の全身に激しい痛みが駆け抜ける。

「ラ…、ライさんっ!アルバ!!」

「ポムニット!リビエルたち呼んできて!!早くッ!!」

「は、はい!かしこまりました!」

視界が徐々にぼやけて、全身に鈍い痛みを感じる一方で、何故か酷い眠気を感じて意識が徐々に朦朧としてゆく。
沢山の足音が聴こえる。誰かが自分を呼んでいる。
そうしたざわめきが少しずつ遠のき、食堂の天井が瞳に映る。


ライの記憶は、そこで途絶えた。





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