インベンション。
□これも何かのご縁です
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同じ年の友人ライは学生の身でありながら、小さな寮を営んでいる。
寮の名前は「忘れじの面影寮」といって、二階建てで少し郊外に位置する。
部屋は6畳半で、窓と押入れがひとつずつ。トイレと風呂と洗濯機は兼用。
家賃は安いけれど案の定、快適とはいえない厳しい条件がそろっていたが、寮は5つある部屋のうち、ただ1つを残して全て埋まっている。
その理由はライのつくる美味しい料理が三食付くからだった。
寮の全員がそろう食堂は狭いけれど、本当にライのつくる料理は、コンビニ弁当やその辺のファミリーレストランの料理などと比べ物にならないほど美味しい。
自分も初めて食べたときは旨すぎて驚いた。
…まあ、説明話はこの辺にしておこう。
ライと友人になってから、自分はその寮へ足を運ぶことはなかった。
いつでも来いよ、とライに言われていたものの、部活が忙しかったし――何よりもライが忙しそうで、遊びに行くのは何となく気が引けたのだ。
母親と妹は身体が弱くて入院。
父親はその医療費を稼ぐ為に仕事に忙殺されて帰ってこない。
そんな家庭事情を抱えて、たった一人で寮を営む。
これがどんなに大変なことか、微塵も経営に携わったことのない自分にだって分かる。
だから偶々、部活が休みのときでもライの家へ遊びにいこう、など思わなかった。
出来るだけ気をつかっていたのだ。自分なりに。
でも、まさか。
こんな形で足を踏み入れることになるなんて、思いもしなかった。
「ここだよな…」
少し郊外にある、二階建ての家。
外観としては寮というよりも宿だけれど、表に掲げてある看板には「忘れじの面影寮」と書いてあった。
木で出来た看板は家を囲む塀に埋め込まれているから間違いないだろう。
聞こえる訳がないと分かっていても、小声で「おじゃまします」と言いながら塀の内へと入る。
玄関先から見える庭では、沢山の洗濯物が竿にかけられていた。結構な量だった。
これを毎日毎朝、ライは登校前に干しているのか。
何となく今日のことも合点がいって、溜息をつく。