インベンション。

□彼の眼鏡は理性の箍
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アルバは外へ出ようとして食堂を横切っている最中、何か違和感を感じて足を止めた。

彼が立ち止まった場所はちょうど食堂の中心で、そこから辺りをぐるりと見渡す。
忙しさのピークである昼から3時間経った今、食堂には客の姿がない。
ただ、客ではなく居候の侍が一人、窓側の隅の椅子に座っていた。


挨拶をする為にアルバは数歩、シンゲンへと近寄って気付く。

探していた違和感はそこにあった。
テーブルに頬杖をついて窓の外を眺めているシンゲンの顔には、アレがないのだ。
彼の一部といえる、眼鏡が。

(眼鏡を掛けてないシンゲンさんを見るのは珍しい……というより、初めてだ…)

物珍しさから不躾に顔をジロジロと見てしまう。
すると視線を感じたのか、シンゲンは窓から少年の方へ顔を向けた。

「そこにいるのは……アルバくんですか?」

疑問系なのは視界がぼやけて見えない為だろう。
アルバは彼に聞こえる声で「はい」と返事をする。

その時、二人はテーブルを挟んだ少しの距離しか離れていない。
だがシンゲンは目の前にいる人がアルバだとハッキリ分からなかった──となると、彼の視力は余り良くないようだ。

そう悟った少年は向かい側の椅子ではなく、彼の真横に椅子を移動させて其処に腰掛ける。
そして口を開くなり尋ねた。

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