book1

□涙の温度
3ページ/10ページ



「ただいまー」
「おじゃましまーす」

平助の家につき、いつものように挨拶をする。
が、奥から返事はない。
平助の母親はパートに出てる。
親父さんが帰ってくるにはまだ早い。
夕暮れ時の午後5時15分。

「で、えっと。何か用事あった?」
「用事がなきゃお前んち来ちゃいけねぇのかよ」
「え?いや、そうじゃないけど。珍しいなーと思って」

珍しいのはお前だろう、なんて突っ込みはこの際どうでもよかった。
何なんだその、あからさまな挙動不審は。
俺はいつも通り鞄を床に置いてベッドの下に座る。
いつもなら平助は机に鞄を置いてすぐベッドに寝転がる、
はずなのに。
意味も分からずそわそわと、部屋の真ん中で突っ立ってるだけだ。

「…何してんのお前」
「え、あ、お茶とか飲む?」
「いらね」
「…あ、そう」

イライラした。
俺がこんなにもイライラするのはすごく久しぶりだ。
前はいったいいつだったかと記憶を辿っても出てこなかった。
そして何かがキレる音が、聞こえたような気がした。

「平助」
「ん?なn、うわっ!」

立ち上がって平助の腕を掴んで、そのままベッドに引き倒した。
ベッドに乗り上がり、平助の上に跨る。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ