book1
□涙の温度
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「ただいまー」
「おじゃましまーす」
平助の家につき、いつものように挨拶をする。
が、奥から返事はない。
平助の母親はパートに出てる。
親父さんが帰ってくるにはまだ早い。
夕暮れ時の午後5時15分。
「で、えっと。何か用事あった?」
「用事がなきゃお前んち来ちゃいけねぇのかよ」
「え?いや、そうじゃないけど。珍しいなーと思って」
珍しいのはお前だろう、なんて突っ込みはこの際どうでもよかった。
何なんだその、あからさまな挙動不審は。
俺はいつも通り鞄を床に置いてベッドの下に座る。
いつもなら平助は机に鞄を置いてすぐベッドに寝転がる、
はずなのに。
意味も分からずそわそわと、部屋の真ん中で突っ立ってるだけだ。
「…何してんのお前」
「え、あ、お茶とか飲む?」
「いらね」
「…あ、そう」
イライラした。
俺がこんなにもイライラするのはすごく久しぶりだ。
前はいったいいつだったかと記憶を辿っても出てこなかった。
そして何かがキレる音が、聞こえたような気がした。
「平助」
「ん?なn、うわっ!」
立ち上がって平助の腕を掴んで、そのままベッドに引き倒した。
ベッドに乗り上がり、平助の上に跨る。