book1
□trying
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「…はぁ…」
「あ、ちょ、しんぱっ」
新八っつぁんの力が抜けて、ずるずると俺の腕から抜けていく。
俺の胸辺りに新八っつぁんの頭があって、目があった。
ぺたっと、頬を触られて。苦笑してる。
「お前の悪い癖だぞそれ」
「え?」
「すーぐそうやってため込む」
「別にそういう訳じゃ」
「じゃあ何ヨこの顔。何かありましたって顔に書いてるけど?」
この人の事は何でもかんでも大好きだけど、ここだけは嫌いだ。
凄く鋭い所が。
「新八っつぁんだってそうだろー?」
「ん?」
「何かあっても何も言わない」
「俺は自己処理してるからへーき」
ここも、すぐはぐらかす所も。
すぐ笑って、何も無かったことにする所も。
好きじゃない。
「それにそんな泣きそうな顔して放っとけるかっよっ!」
「いてっ」
笑いながら、額を指で弾かれた。
見透かされてる。全部気づいてる。
なのに、俺が言葉を発するのを待っていて、それまでは俺の領域に入ってこない。
それが酷く残酷なことなんだって、彼は知らない。
優しすぎるから。
そしてそんな彼にどこかで甘えてる。
そんな俺はもっと卑怯で悪人だ。
こんな時、左之が羨ましく思う。
あんな風に、言えたらって…。
新八っつぁんのように冷静にもなれず、
左之のようにぶつかって行くこともできず、
中途半端だ。
「あーもー」
「え、新八っつぁん、え?何、ちょ!」