book1

□雪積涙-sesserui-★
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今、温かいのは
俺の大量の血のせいか
それとも
新八っつぁんの腕の温かさか

今、ナいたのは
うまく吐き出せない俺の呼吸音か
それとも
新八っつぁんの 小さな声か

新八っつぁんがしきりに俺の名前を呼んでいた
目にはこぼれ落ちそうな大粒の
俺の名前の他に何か言っていたような気もするけど
彼が呼んでる俺の名前しか耳には入ってこない
他の言葉はするりと抜けて行くばかりで
意味を成さなかった

何か喋ろうにも上手く声が出せなくて
口が動いても声じゃない空気しか出なかった
そのたびに新八っつぁんは首を横に振った
俺の額を撫でて、笑った
この笑顔を俺は知ってる

あぁ山南さんが亡くなった時の…
笑顔だ
彼の頬に触れて指で大粒を拭うと
つうっと指を伝う温もり
代わりに彼の目頭が血で赤く染まった

ほんのりほんのり視界がかすれてくる…
ゆっくりゆっくり声が湾曲してくる…

もう彼の顔が見えない
もう彼の声が聞こえない


はたり はたり
きらり きらり

ホタホタと、
頬に落ちてくる

「…あぁ…新八っつぁん……ゆき……?」

きらり光って降り注いでくる光は
いつもの雪のよう冷たくはなくて
さっきの彼の涙と同じくらい
温かだった

「…あった かい……」

大きな彼の声がしたような気がした
けれどももうそれもわからず
俺はふわっと、なった。
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