book1

□白昼夢
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日差しが温かだ。
時折吹く風も優しくほのかに温かで。
気持ちが良い。
せっかくの散歩日よりだというのに、それに誘ってくれるあいつはいない。
こんな日和に午後の見回りなんて…眠くて叶わないだろうな。そう思いながら、俺は自室に仰向けで寝転がった。

部屋の中を風が通って行く。
風が鳴らす葉擦れの音以外聞こえない。
静かな時だった。自然と目が閉じられる。

「こんなんじゃ眠っちまう…」

別に眠いわけでもないのに、風に誘われて夢の中へ落ちていきそうだった。
春の香りがする。土や新緑の香りを風が運ぶ。
そよぐ風が俺の髪や、頬を撫でて心地よい感触が残る。
夕方に少し散歩へ行こう、見回り帰りのあいつを誘って。
嫌そうな顔をしながら渋々承諾するだろう平助の顔が浮かんで。
クスッと笑いが零れた。

「何笑ってるの?それとも何か夢でも見てる?」

突然聞こえる声。
それは平助の声だった。
まだ帰ってくるには早すぎる。
目を開けようとすると、ふわりと柔らかな物が目蓋に触れた。
おそらく平助の手だろう。
手は目蓋に触れ、前髪を割り額を撫で頬に触れた。
そして、

「新八っつぁん…」

唇に柔らかな物が触れた。

「ッ!!…あ、れ?」

驚いて体を起こす。けれどもそこには誰もいない。
すると足音が聞こえ、開けっ放しの部屋に平助が入ってきた。

「新八っつぁんたっだいまー!今帰ってきたよー!」
「…おかえり……今、帰ってきたの?」
「?そうだけど?」

平助の後ろでは、日が落ち始めているんだろう。
空がほんのりと茜色をしていた。

いつのまにか寝てた…?という事は今のは、
夢…?

「ッ!」
「…新八っつぁん?」

見ていた夢を思いだし、途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
平助を見れずに下を向くと、どこから舞い込んできたのか、
桜の花びらが一枚落ちていた。

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