book1

□舞う、桜と風と
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青い空を駆けるよう風が吹く。
つい最近まで、白い雪が空を舞っていた。
暖かくなるとそれは色を持ち、花びらに変わる。
河原を歩く俺の横を抜ける風も、春の香りがしたような気がした。
風の先には桃色に染まる木。
桜の木だ。

「あ、新八っつぁん桜!」
「あったかいからなー。もう春だネ」
「ちょっと座ってかない?」
「ん?いいヨ」

河原には草が茂っている。
新八っつぁんは腰を下ろし、俺は彼の横に寝転がった。
茂る草と湿った土の香り。背中は少しひんやりとしてる。
空は突き抜けるような青一色。
横を見ると彼が目を閉じていた。柔らかい風が彼の髪を揺らす。
その中、薄紅色の花びらが風に乗って舞った。
青空に舞う花びらはとても綺麗で、その中にいる彼は…
消えてしまいそうなほど儚かなく綺麗だった。

「…新八っつぁん?」

風に吹かれ、桜が舞い、彼の目がゆっくり開き俺を見た。

「ん?」
「…、あ」
「え?」

無意識に抱きしめた。
消えてしまいそうな気がして。
風が、桜が、連れていってしまうような気がして…。

「…へ、すけ?」

触れた彼はいつもの温もりで、無性に安心した。

「どっか、行っちゃいそうな気がしてさ?びっくりして」
「ぷっ何言ってんだ?お前」

抱きしめられたまま彼は笑った。
そして俺の背に手を回し、くっと顔を上げて俺の耳元で囁いた。

「どこにもいかないヨ…」
「…新八っつぁん?」
「ん?」

抱きしめた腕を緩め、新八っつぁんの顔を見た。
俺が好きな彼。いつもの笑顔。
顔を近づけると、暗黙の了解のよう彼は目を閉じた。
同じく目を閉じ、彼の柔らかい唇に重ねる。


背中の方で、ザァッと風が流れた。








手を繋いだまま、俺と平助は歩いた。
前を向いたまま平助は、言う。
「新八っつぁん…本当にどこにも、行かない?」
「守れない約束はしないヨ俺は…」
「じゃ俺のそばにいてくれる?」
「お前はどうなんだよ」
「俺?俺は………」

ザァッ!

風が、平助の声を
掻き消した。

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