book1

□声
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声が
聞きたいと思った。
会えないからせめて…
声だけでも聞きたいって。
携帯のメモリーを開くまでもなく、履歴だけで相手の番号が表示される。
あとは受話器を上げるボタンを押すだけで繋がるのに。
繋がるのに。

押せない…。

散々迷って、結局電話をした。
近況報告とかくだらない話や笑い話をして電話を切って。
そして部屋は静まりかえる。
頭に余韻のように声が広がっているのに。

それでもここに、
君はいない。

寂しさは声を聞く前より、胸の奥まで染みわたっていて。
言いたかったことは最後まで言えず終いに。
声を聞いただけじゃ、声だけじゃ、
俺はきっと満足なんかできないんだ。

電話の後に来たメールに。
思わず涙が出そうになった。


 −明日の夜、逢いに行くから…。

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