book1

□ここにいる
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そよぐ風に当たっていた。
いつも新八と平助がしていたように。
柄にもなく空だけを眺め、動く雲の形を追っている。

「左之?」
「ん?どした?」
「何してンの?」

とととッと新八がやってきて、俺の横に腰掛けた。

「風によ、あたってたんだ」
「柄にもないことしちゃってー」
「俺もそう思うぜ」

クスクス笑う新八と一緒に俺も笑った。
二人して、空をただ見ていた。
本来ここにいるのは平助のはずだった。
おそらく新八も、心のどこかでそう思ってるはずだ。
それを咎める理由も攻める理由も俺にはない。
ただ、我慢している新八が、
少しだけ許せないだけ…。

トンッ

「?新八?」

新八が俺に寄りかかった。
声をかけても彼は下を向いているばかりで。
規則正しい呼吸。寝ているわけでも、ない。

「…さの…」

弱々しい彼の声が小さく聞こえる。

「あぁ…俺はここにいる」

小さな体を抱き寄せる。
身動きせず彼は俺に体を預けていた。
小さくても大きく見えていた彼の姿は。
あいつが居なくなってから、小さくなってしまった。

「俺はずっとここにいる。お前のそばにいるから…安心しろ」

新八は身動き一つしない。俺は彼を抱きしめたまま。
壊れてしまいそうだと思った。あんなに強かった彼が今では。
こんなにも脆い。
優しく、抱いていたかった。
新八の温かさが、布越しから染みわたる。

あいつが居た時のように笑ってもらいたかった。
どうしたらいいかなんて分かるはずもない。
でも俺ができることは。
こうして新八のそばにずっと。いること。
平助にはなれないが、こいつのそばにいることはできるから。

「新八…俺はどこにも行ったりしねぇ…だから…」


笑ってくれよ…

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