book1
□空耳
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「好きだヨ」
「…え、」
突然の彼の言葉。
ソラミミ…じゃ、ないよね?
彼はいつもの場所で本を読んでいた。
俺はそんな彼を見ていた。
いつものよう彼をぼーっと見ていたから、彼の口から出された言葉かどうかは。
わからなかった。
「今…なんて言った?」
聞き返してみる。
すると彼は、
「…何も言ってないけど?」
そう言い放つ。
何もない顔で、さらりと
俺の空耳だったかのように、
俺の空耳にするように彼は…
眉一つ動かさず活字を目で追いかける。
「新八っつぁん…」
「んー?」
本をめくろうと上げた手を掴んで、自分の方に引っ張った。
驚いて顔を上げた彼と一瞬目が合うけど、すぐ俺の胸に押しつける。
手から落ちた本がとさっと音を立てた。
「へいす、」
「俺も、好きだよ」
彼の言葉を遮って、空耳の返事を返して。
顔を上げる彼に口付けた。