book1

□酒と
1ページ/2ページ

たった一つの約束だなんて
くだらなすぎて笑える
三人で交わした約束なんかもう
あの時見た流れ星と一緒に
流れて消えちまったんだ



ゆらゆらと揺れる透明な液に写る月。
少し器を揺らしてやればそれは、月ではなく得体の知れない黄色い物体だ。
サワサワと揺らす風は幾分冷たくて、酒で熱を帯びてる体には気持ちよかった。
撫でるように俺の髪を揺らす風。
誘われるように器の液を口にした。
あぁもう酒の味なんか分からない…

「…新八…おめー飲み過ぎじゃねぇか?」
「…そんな事ないヨ」

手酌で飲み続けて空けた数はもう分からない。
冗談交じりでお酌していた狐目が、頭の奥で笑った。

「…左之、お前の酒ちょうだいよ」

徳利からはもう一滴しか零れてこない。
空ばかり転がる中で、左之助が持ってる徳利を見つけた。

「今日はしめぇだ。いくらなんでも飲み過ぎだろ」

左之助から器を奪われ俺の手は空を書く。
俺よりも、左之助よりも、酒が弱いあいつがいないと。
酒の飲み方がいまいち分からない。

あぁ左之助の言うとおり、今日は飲み過ぎたのかもしれない。

「新八…」
「ん?ンッ…ぅ…」

名を呼ばれ振り向くといきなり唇を奪われる。
舌を差し込まれ唇を甘噛みされ吸い付かれた。

「…左之?何?」
「……新八ぃー?還ってこいよー…ったくこんなベロベロになるまで悪酔いしやがって…おら寝るぞ!」

左之助に引きずられように近場の部屋…俺の部屋へと移動する。
麻痺した俺の舌には味の分からない酒よりも。
さっきの左之助の接吻の方が全然酔えそうだ。
そう思った自分に気が付いて、相当酔ってる事に気が付く。
酒にも…。
恐らくこいつにも。
やっぱり酔ってるなと…少し笑いが出た。

「平助がさー…」
「あん?」
「…いや、何でもねぇ」

また三人で。
馬鹿みたいに騒いで笑って酒が飲める日がきたら。
今度は俺があいつにお酌してやろう。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ