book1

□てのひら
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あなたの手を
握っていてもいいですか。



繋いだ手を放したくなかった。
ゆっくり沈む夕日に照らされて、彼の髪が茜色に染まっている。
きゅっと握った手。
いつからかこの小川を歩いて帰る時は手を繋いで帰るようになった。
お互いの寒さで赤くなった手を温めるように。
繋いだ手から温かさが伝わってくる。
温かさも優しさも愛しさも…。
彼の全てが俺に伝わってきていた。
それが俺は心地よくて、この帰り道が好きだった。
徐々に厳しかった冬が揺るいでいく。
それと一緒に彼の手の力も揺るいでいった。
夕日が沈んでいく空の色も、
夕日に染まる彼も、
色濃いこの二つの影も、
家路に帰る切なさも、
いつでも温かく優しい君の手も…
全て好きなんだ俺は。
雪が溶けて春が来て、温かくなったらこの手は離れてしまうのかな。
まだこの愛しさに触れていたいんだけど俺は。
だめ、かな…。


あなたの手を、
まだ握っていてもいいですか?

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